ヒバクシャ ~世界の終わりに~ [DVD]

出演 : ドキュメンタリー映画 
  • 紀伊國屋書店
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感想 : 9
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「ヒバクシャ」とのタイトルを聞くと、広島、長崎での原爆投下を思い出す人が多いかもしれない。この映画は劣化ウラン弾の後遺症に悩む子供たちの姿から始まる。

劣化ウラン弾は原発に使われる濃縮ウランの製造過程で生まれる廃棄物の劣化ウランを使用したもので、高熱を発することから厚い金属を貫通する強力な武器。

1991年の湾岸戦争で初めて使用され、2003年からのイラク戦争でも3000トン程度使われたと言われる。その残留物からはいまだに強い放射性物質を発し、白血病やがんに苦しむ子供たちが急増している。

放射能被害はふたつのタイプがある。広島・長崎の原爆による犠牲者は「被爆者」で、イラクの子供たちのように直接、爆発の影響を受けていないにもかかわらず、健康被害を受けてしまった者は「被曝者」である。

カタカナでの「ヒバクシャ」は2つのタイプを包括している。現在、世界中には1000万人以上のヒバクシャがおり、それは増え続けているという。

映画は3つの国が舞台になっている。イラクから始まり、原爆が作られた米核施設があるワシントン州ハンフォード、長崎へと移っていく。

ハンフォードの核施設の風下の農業地帯で暮らす米農業従事者の健康被害のさまは想像を越えて深刻だ。地元住民は「死の1マイル」と呼ばれる地域を案内する。家々をさして、「ここの妻はがんで死んだ」「ここの妻もがんで死んだ」という。死人と重度の病人しかいない。しかし、米国は核施設と周辺住民の健康被害には因果関係が認められないとして、補償さえも拒んでいる、という。

さらに衝撃的なのは、ここで作られた作物は日本にも輸出されている、ということだ。映画はイラク、米国、日本と3つの国をつなぐことによって、特定の地域、特殊な事情にある人々の問題ではなく、人類共通の問題であることを提起している。しかしながら、製作側の「語り口」(演出)はもの静か。それだけに、観客側に考えるだけの「空白」を与えてくれている。

ここで描かれていることは、監督の鎌仲ひとみ氏と映画にも登場する元日本軍軍医で自身もヒバクシャである肥田舜太郎氏による著書「内部被曝の脅威」でも書かれている。しかし、改めて映像で見ると、生々しく胸に迫ってくる。

特典映像の「帰還兵メリッサの証言」も必見。イラク戦争に参加した女性兵士も原因不明の病に苦しんでいるという。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 日本映画
感想投稿日 : 2011年4月20日
読了日 : 2011年4月20日
本棚登録日 : 2011年4月20日

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