大江健三郎小説 4

著者 :
  • 新潮社 (1996年9月1日発売)
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本棚登録 : 17
感想 : 3
5

長編2作、共にすごい熱量を放つ。小説家としての使命を担って宣戦布告しているとしか考えられない。「一体この人類の世界に、人間がほかの人間を支配する関係よりも、なお大きい問題があるかね?人間が人間に支配される体制を、打ち壊すのが革命じゃないのか?」これほど単純なことすらできない人類を、嘲り嘆きながらもピンチランナーの受難を引き受けようとする決意。リー、リー、リーとけしかけられながら、虎視眈々と最終局面での奇跡を狙うピンチランナーの悲哀。その無様な一途さを武器に最後まで抗うことで未来は託される。信じるしかない。


『洪水はわが魂に及び』は、小説として物語性があるし、スリリングだし、エロティックだし、大江の長編の中では読みやすい方だと思う。ラストは感動的だ。『ピンチランナー調書』は、難解なドタバタ劇の中に潜む悲哀を感じ取れば一挙に引き込まれる。核に対する考察は、3.11以降の今でこそ通じる必要な示唆が含まれている。

余談だが、ピンチランナーは私が10代の半ば頃、始めて読んだ大江作品なので感慨深い。この喜劇に涙涙して、この作家についていこうと心に決めた。因みに先頃再読したユング自伝は、この小説に導かれて手にしたことを思い出した。ユング自伝はキーポイント。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 日本文学
感想投稿日 : 2014年3月30日
読了日 : 2014年3月30日
本棚登録日 : 2014年3月30日

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