小田嶋隆は僕が最も尊敬する物書きの1人であるが、その理由は彼の視点が鋭い(分析が深い)こと、文章が面白いことの2点である(後者は駄洒落めいたものも多く意見が分かれるところであると思うが、僕は好き)。
前者が特に大事なのだが、世の中にはテレビのワイドショーを筆頭に浅くてくだらないことを言う人間が多く、かつそれをそのまま信じている人間が多い中で、やや斜に構えすぎに見えるオダジマさんの切り口は実はもっとも納得感のある分析になっている。
例えば、日経オンラインに書いていたオリンピックが何故盛り上がらないか、の論などは世間の薄っぺらなオリンピックブームを正しく切り取っていると言えるだろう(オリンピックが盛り上がらないのは、いつしかトップアスリートを見るものから同国人を応援するものへと変わったから)。
で、今回の本は後者については充分そのクオリティを担保していると思うが、前者はやや心もとない。
切りつけた切り口は斬新だが、学歴社会の肝を取り出すまでは行かなかったというのが所感である。
コラムニストの性癖というべきか、1つ1つのエピソードが全体を通した解決策を提示するというような構成をとっていないという原因もあるだろう。
個人的な見解としては、人が学歴にこだわるのは、自分の価値観というものを確立できないからであり、その背景には個人の確立していない世間の中に生きる日本人という要素が大きいと思うが、変えるために必要なのはやはり教育であろう。
学校の価値観が世間にはびこる学校化(学歴社会)を解消するには、かなりドラスティックな変革が必要だと思うが、例えばテストを廃止して論文にするとか、義務教育課程を大幅に削減するとかすれば効果は見込めるのではないだろうか。
こうしたアイデアには必ず、それでは国力が低下するだのといった批判が聞かれるが、そうした批判自体が既に学力→GDP=国力という一元的な価値観にとらわれた発想である。
国の豊かさは平均的な人間を多く生みだし、マニュアルに沿った作業を適切にこなさせることによって生まれるものだとは限らない。多様なものが混ざり合って新たなよくわからないものが生み出されるという世の中に希望を見出していくのが真の持続可能な"発展"ではないだろうか。
- 感想投稿日 : 2010年2月19日
- 読了日 : 2010年2月18日
- 本棚登録日 : 2010年2月18日
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