本書は学術書ではないので、何が何処まで確からしいのか判定は難しいですが、かなりの情報量が盛り込まれていて、参考書として非常に役に立ちます。但し、マルクスについての解説本ではないので、ちょっとタイトルが紛らわしいです。
「本書は書き下ろしだが、ブログやメールマガジンや雑誌の原稿のほか、2013年7月から12月まで行ったアゴラ読書塾「グローバル資本主義を考える」のテキストを利用した。」と書いてありますので、恐らく色々な文章の組み合わせなのだろうと思います。非常にうまくつなぎ合わせていますが。
以下、この本で最も参考になった「終章」の部分の抜粋です。
「資本主義は戦争から生まれ、戦争に適応した経済システムである。それは全員の生存を目的とせず、株主価値を最大化するためには労働者を解雇する専制的システムであるがゆえに、世界のどこでもきらわれる。しかし資本主義は歴史上どんな文明も実現したことのない大きな富を実現し、人々を飢饉や疫病から救った。ほんの百年前まで、人類の平均寿命は四十年に満たなかったのだ。資本主義がいかに不平等で不安定なシステムだろうと、人々は豊かになった生活から昔に戻ることはできない。
しかし資本主義はその可能性をほぼ使い切り、長期停滞(収穫逓減)の傾向が見えてきた。それはマルクスが百五十年前に予言した資本主義の行き詰まりだが、彼の考えたアソシエーションで打開することはできない。特にこれから人口の減少する日本では、経済規模が縮小することは避けられない。成長という目標を失った人々は、これから何を目標にすればいいのだろか。
幸福は金で買えない。行動経済学の調査でも、幸福度は所得が急速に伸びる発展途上国では所得とともに上がるが、年収一万ドルを超えると相関が弱くなる。四万ドルを超えると相関がなくなり、家族や名誉など他の要因の影響のほうが強くなる。
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G型のスーパーエリートは人口の数パーセントの、超競争的でリスクの大きい世界だ。ほとんどの人は、そういうストレスの多い生活が快適だとは思わないだろう。普通の人は、L型のほうが好きなのではないか。江戸時代には人々はそれで三百年も暮したのだから、L型は日本人に向いている。
ただ人口が減少して高齢化し、労働集約的なL型産業の比重が高まる中で、国民所得を維持するのは容易なことではない。G型産業は世界で一つの「オリンピック」なので、貿易・資本自由化ぐらいしか政府のできることはないが、L型産業の集約化や効率化のために地方自治体のやるべきことは多い。
資本主義の歴史はマルクスの述べたように闘争の歴史だが、それは階級闘争というよりは国家による戦争の歴史だった。ニ十世紀は(直感に反して)歴史上もっとも死亡率の低い時代だったが、それを実現したのは平和運動ではなく、核兵器や通常兵器の均衡だった。資本主義を支えているのも人々の善意ではなく、所有権を保証する制度と、それを守る国家である。
したがって今後、グローバル化によって主権国家の支配力が弱まることは、資本主義にとっては両刃の剣である。それは一方では、資本を国家のくびきから解放して自由な利潤追求を可能にする一方で、先進国では所得格差を拡大して貧困層をさらに貧困化し、資本主義を否定する政治不安をもたらすおそれもある。必要なのは、グローバル資本主義を無条件に賛美することでもなければ「反グローバリズム」を叫ぶことでもなく、資本主義と国家の新しい関係を考えることだろう。」
- 感想投稿日 : 2015年5月1日
- 読了日 : -
- 本棚登録日 : 2015年4月17日
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