めくるめく物語とはこのような話を言うのだろうか。物語の中の切れ端がまた次の物語を紡ぎだし、紡がれた物語がまた別の話を拾い出す。
心と体の均衡が元通りではない病み上がりの主人公シドニー・オアそのもののように。
退院してニューヨークの街を当てもなく外出し始めたシドニーが、妙に気を引かれた文具店でたまたま手にしたポルトガル製の青いノート。
そのノートを買ったことをきっかけに、書くことによって引き出された雑多な話が現実とあいまって、複雑に絡まりながらも最後には一本の筋となって静かに収束するさまはさすがに上手い。
シドニーから見た現実とも虚構とも思えるような物語や場面の数々が、内奥の反映として存在したのだと思えば、これはなんと胸の詰まる物語だったのだろうと、そんなふうに感じてしまったオースターの一冊だった。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
小説・海外
- 感想投稿日 : 2011年1月3日
- 読了日 : 2011年12月16日
- 本棚登録日 : 2010年12月12日
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