平安京の災害史: 都市の危機と再生 (歴史文化ライブラリー 345)

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  • 吉川弘文館 (2012年5月1日発売)
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古代の災害、特に都市平安京の災害記事を紹介した本である。古代の災害について史料的制約もあり、推測に頼らざるを得ない箇所も多々あるが、本書は古代都市の災害を鮮明に描いているという意味で評価できる。

古代の災害には「裳瘡」や「豌豆瘡」と呼ばれる疱瘡、鴨川の洪水、「なゐ」(地震)や「大風」(台風など)による被害、火災などが紹介されている。

これら災害の被害が都市平安京で拡大した一因として、都市空間や生活環境の変化が考えられている。
例えば、10~11世紀にかけての気候変動、いわゆる「平安海進」がある。比較的気候が温暖だったこの時期に、人口の増加したことで、11世紀の「養和の飢饉」のような大規模災害を引き起こしたと考えられている。

また、10世紀に入ると律令制下で行われていた造籍や班田収受も行われなくなり、地方では国司や郡司から自立化した存在の「富裕層」が現れてくる(この「富裕層」が権門勢家と結びついていく)。この地方での状態は、従来の郡司を中心とする共同体が崩壊している様を表すとされ、この頃に消滅した村も多いという。この際、村か都市へと流出した者もいた。
要するに、気候変動や国内制度の変容という諸条件が重なり、平安京への人口集中という現象が起きた。

平安京では、周知のように10世紀半ばには右京の衰退、左京の人口集中という現象も起きてくる。さらに土地利用として、「河原」の利用も進み洪水被害を受けるようになる。また、平安京の「町」の区画も12世紀に変容し、大路の狭小化が起きてくる。これによって火災被害の規模も拡大したそうだ。

本書から分かるように、災害被害の拡大には意図的か否かに関わらず、人災の要素がある。気候変動や制度の変容など致し方ない部分もあるが、人口集中や危険な場所への都市空間の拡大などが災害被害の拡大につながることが分かる。

この本が人の営みと災害の関係について見つめる良い機会になればと思う。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 歴史
感想投稿日 : 2015年8月22日
読了日 : 2015年7月31日
本棚登録日 : 2015年7月31日

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