持ち重りする薔薇の花

著者 :
  • 新潮社 (2011年10月27日発売)
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本棚登録 : 147
感想 : 35

丸谷才一さんの遺作小説になってしまいました・・。これが発表されたのは去年の秋。元々10年に一回くらいのペースで小説を発表されてきた丸谷先生、きっとこれが最後だ、とご自分でも思われてたんでしょうね。



すっごぉ~~く面白かったです。
丸谷さんの老いに伴うあれこれ、なんて素人考えで心配しないで、素直に発表されてすぐに読めばよかった…。


経済界の大物・梶井が、自分(や関係者)の死後に発表するようにと、懇意な記者・野原に語る、弦楽四重奏団の黎明期から現在までの三十年。
若き楽団員の、これから大きな夢が形になっていくぞ、という時期の心弾む横顔から、私生活のトラブル、ちょっとした言葉の齟齬からもたらされるギクシャク、また並行して、梶井や野原の人となり&人生について、どこをどう読んでも面白くて、丸谷先生、これまで楽しませてくれてありがとうございました、と深々と頭を下げて御礼を言いたい気持ちです。


私、弦楽四重奏のあれこれ、なんて何も知らないけど(でも弦楽四重奏にバイオリンが二本入るのは知ってましたよ。(*^_^*))梶井の目線で語られる、4人の奏でる音楽はまるで紙面から立ち上がってくるように気持ちに響くものがありましたし、また、弦楽四重奏曲に関するウンチクもとても楽しく読みました。

帯からそのまま引用すると、

カルテットというのは、四人で薔薇の花束を持つようなものだな。
面倒だぞ、
厄介だぞ、
持ちにくいぞ。

というのがタイトルの由来で、(でもちょっとそこには、その例えでいいのかな、私にはあんまりしっくり来ないんだけど、なんて、大胆にも言ってみたりする。汗)
また、早めにクレームをつけてしまえば、カルテット4人のキャラ設定には頷けるものがあったけど、トラブルが起こる時の発端がちょっと唐突すぎる場合があり(主に男女間の揉め事絡みだけどね)、そこは今一つ・・・だったかな、なんて。

でも、たった4人で一つの音楽の世界を作り上げる楽しさ、困難さ、また、その中での人間臭さの描写には、うん、さすが丸谷さんらしい品のいい“風俗小説”だと思いました。


そして、絶えず美しい弦楽の調べが流れているような小説を読みながら、私ってばなんて俗なヤツなの、と思いつつ、これって、丸谷先生の「微笑み返し」だったんだなぁ、と。

長年の丸谷才一ファンに、というお気持ちだったんでしょう、これまでの長編、中編、エッセイ、その他の匂いを伝えるエピソードがさりげなくはめ込まれていて、その時々の丸谷さんの姿勢や若かった自分、なんてものまで思い出せたのは嬉しいプレゼントでした。(だから、前に述べた“唐突な展開のエピソード”もそのためにやむを得ず挟み込んだもの?なんて、思ったりするのは贔屓の引き倒しすぎるでしょうか?)

昭和元年生まれの丸谷さんが現役で活動されている、という思いが、実はかなり私にとっての力になっていたんだなぁ、なんて、こんなところでしんみりしたりもして。

どうもありがとうございました。
あなたのおかげで、自分に自信を持つことができ、人生の指針まで時に提示してもらい、また、その余得(弊害とも言う?(*^_^*))としてちょっと意地悪になった読者です。
お疲れ様でした、どうぞ天国でも洒脱で全体主義嫌いな丸谷さんでいてくださいますように、と言わせてもらいたいです。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2012年12月14日
読了日 : 2012年12月14日
本棚登録日 : 2012年12月14日

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