レビュー by sayさん
完成度は高いと思う。
タイトルの付け方も秀逸。何よりキャスティングが素晴らしい。
だが、個人的には面白いかと問われれば、否。
少なくともこの役者陣だからこそのこの完成度であって
そうでなければ個性があり味がある雰囲気にはならなかったのではないか。
ストーリーとしては一応サスペンスなのだが
所謂サスペンスとは程遠いと思う。
裁判云々という前評判を聞いたときには『それでも僕はやってない』のようなものを想像したせいもありちょっと物足りない。
また、美しい映像、突然の事故、痛ましい展開は、あらすじを知らずに見たらトラウマになりそうだ。
真面目で優しい兄と奔放だが兄思いの弟が
事故をきっかけに抑圧されていた兄の鬱屈した思いが爆発し
支えようとしていた弟にも迷いが生じる
というあたりはそれぞれの役者の実力もあってとてもリアルで見事に描かれている。
地方出身者にありがちな、長男は田舎で家を守り、次男は自分のやりたいことをやる。
兄は弟を羨むが、弟は弟で兄に引け目もありまた羨ましくも思う。
猛と稔だけでなく、彼らの父と叔父である勇と修の間にもそうした兄弟の問題はさらりと描かれていて
法事や食事のシーンでの兄弟喧嘩には思わず、「あるある」と頷いてしまう。
監督・脚本が女性で、男性スタッフの直しを何度も入れて完成したという話を聞いた。
女の独りよがりという感想も見たが、個人的には女性が撮ったとは思えなかった。
良い意味でヒロインの扱いが雑で美化しすぎていない。
出過ぎずしかし魅力的な演技で、ベストキャストだと思う。
だからこそ逆に、弟が証言を翻すあたりが薄いというか理解しづらい表現に感じた。
結局弟は事故を目撃していたのか。
目撃した当時と七年後では、どう考えても当時の方が記憶は新しく正確だ。
見ていないのに見たと証言したなら偽証であり、どの面さげて兄に会えるのかと思う。
見たが事故直後は兄を庇おうと思った、若しくは本当に事故だと思ったが兄を見ている内に考えが変わり、己の見た光景が事件だったのではないかと考えたのなら
事故のビデオならいざ知らず、同じ場所で兄と楽しくしていた思い出を見て考えを改めるというのはいまいち薄い気がする。
本当にこんなことがあったら、兄は控訴して泥沼だろうし
七年たってもあんな笑顔で兄の部下がやってきても会えないだろうと思う。
稔が7年かけて、出所してももう町には戻れないから家には帰れない、
と恐らくあのバスに乗ることを決めていたのだろう。
誰も迎えに来るはずがないと思っていたところに現れた弟。
激しい驚きや喜びでもなく、また怒りでもなく
あの間をおいての笑みは本当に素晴らしい。
香川さんの名演技だ。
だが、事実はわからないし
本当にこんなことがあったなら実際はもっと何もかもが滅茶苦茶で
こんなに美しいものにはならない気がする。
解釈が観ている側に大きく委ねられる映画というのは概して好きなのだが
あのラストに深みをもたせるにはもう一押し欲しかった。
登録日 : 2011年08月25日 12:43:55

