少年漂流記のダークサイド。子どももまた残虐であるというひとつの真実に忠実に描かれた作品。
無人島で人間の残虐性がむきだしになる『東京島』や子ども同士が殺し合う『バトル・ロワイヤル』を連想するが、もちろん、こちらのほうが作品としては古い。『東京島』がアナタハンの女王事件という現実の事件に基づいていることを考えると、ひょっとしたら、本当にこんなこともありうるのかもしれないと背筋に冷たいものが走る。
どうやら本作はバランタインの『珊瑚島』(『さんご島の三少年』)にかなり近い形で書かれているようだ(ちなみに、『さんご島の三少年』は国会図書館のデジタルコレクションで読めるらしい)。
テーマは理性と野蛮の対立といってしまうと単純だが、ここに描かれる野蛮は「少年が学習した野蛮」である。泥で顔を塗りたくり、槍をかまえる少年たちは、殺人というもっとも野蛮で非道な行為に手を染めていく。だが、現実に顔に化粧を施し、狩りを行う民族にも規律は存在しており、これほど非道ではない。なにしろ、この殺人は食物を得るためでも土地や資源を奪い合うためでもなく、逃避と快楽、また強者の実感を得ることを目的として行われているのだ。サイモン殺しについては、ラーフやピギーでさえ、そのそしりを免れえない。自らを律する文明から抜け落ちたとき、ほとんどの少年は憧れの『珊瑚島』や『宝島』を捨て去ったくせに(ここに著者の皮肉がきいている)、文明の中で学習したステレオタイプの未開の蛮族のことは自然の英雄として内面化してしまっている。ほとんどの少年は、文明のなかで培った理性を保つことができていないが、だからといって生まれながらに備わっている残虐性をそのまま発揮したわけでもない。過去に学んできたことを通じて残虐性を強化しているのだ。人は悪い方にも学習する。そこがいちばん恐ろしかった。
それにしても、ジャックはどうなるのだろう。そして、なかったことにされたあのあざのある少年は……。考えれば考えるほど、救われない気持ちになる作品である。
- 感想投稿日 : 2017年10月16日
- 読了日 : 2017年10月16日
- 本棚登録日 : 2017年10月16日
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