ジョーカー・ゲーム (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA/角川書店 (2011年6月23日発売)
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陸軍内に極秘裏に設立されたスパイ養成学校“D機関”。発案者・結城中佐とその生徒たる諜報員は、当時の軍人の信条を真っ向から否定し、神であった天皇の不可侵をものともせず、ひたすら合理的、論理的に第二次世界大戦前夜の混沌とした世界で欧米列強をむこうに諜報戦を挑んでゆく。

参謀本部とのあいだの連絡係として機関に出向する佐久間中尉は、上官である武藤大佐の指示により、スパイ容疑が浮かぶアメリカ人・ゴードン邸の家宅捜査を行う。容疑を立証する証拠が見つからなければ、中尉はその場で腹を切ることになるが――。“D機関”が擁する諜報員の、時代のなかでの異端、軍隊のなかでの鬼子、そしてスパイとしての化け物ぶりを印象深く見せつける表題作『ジョーカー・ゲーム』。
皇紀二千六百年記念式典における要人暗殺計画が露見。その首謀者として名前があがった英国総領事。彼は、シロかクロか。スパイの本来の仕事を読者にまざまざと示した『幽霊』。
ロンドン。スパイ容疑で拘束された写真館を営む日本人青年。十重二十重に、互いに張り巡らされた数々の罠のなかを彼はどうやって脱出するのか。異国の地で、たったひとりで……『ロビンソン』ほか、上海の租界を舞台にした『魔都』、ドイツ人スパイの自殺の謎を追う『XX ダブル・クロス』など、5編を収録。

これまで人気を博し、長く読まれてきたヒギンズやル・カレ、高村薫のスパイ小説とは全く違う、過去を切り捨て、情愛も憎悪もなく、悲嘆することもない“D機関”の物語は、フレミングの007シリーズが持つゲーム性を思い出させる。
ジョーカー・ゲーム。この盤面で、プレイヤーは誰もが“顔のない名無しの男”で完結する。過去を、情を捨てきれないものは本来の名前と顔を取り戻して、一人の青年に戻っていく。
名誉のためでなく、まして愛国心のためでもなく、しかし国際政治の裏で命がけの危険なゲームに身を賭す理由は、己の優秀さを十分に知った青年のもつ強烈な矜持所以だ。

完璧なスパイの完璧な仕事を描く、今までにないエンターティメント性の高いスパイ小説。シリーズの第一巻。

KADOKAWAさんの文芸情報サイト『カドブン(https://kadobun.jp/)』にて、書評を書かせていただきました。

https://kadobun.jp/reviews/40

読書状況:未設定 公開設定:公開
カテゴリ: 作家名:や行(その他)
感想投稿日 : 2017年7月15日
本棚登録日 : 2017年7月15日

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