私は障害者向けのデリヘル嬢

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著者 : 大森みゆき
iamgolgo13or007さん 人権   読み終わった 

 「きっついお仕事」にはいろいろあるだろうけれど、和田虫像氏が体験できなかったお仕事にデリヘル嬢がある。なにしろこれは女性にしかできない仕事なのね。この著者の大森みゆきという名前は仮名です。仮名であるところに風俗という世界へのこの世の偏見ちゅうものがあるのかもね。
 で、この著者、デザイナーとして働きはじめたところ、いろいろな壁にぶち当たっていわゆるソープ嬢になったんだって。その彼女がひょんなことで「障害者専用のデリバリーヘルス」という業界に入ってしまう。なにしろ、ソープ嬢を半年したというのが、このお仕事に就くまでの彼女の風俗と介護(こっちは経験ゼロ)のキャリアなのね。それではじめちゃったんだから、この業界もすごいよね。
 まず、謹厳実直な読者の方々にはデリバリーヘルス、略称デリヘルって何だか説明しないと、この本の意味からしてわかんないわよね。あたし?あたしだってわかってるわけないじゃない。ま、読んでみて推測するにデリバリーってのは出前ってことだから、店舗を持たない仕事なの。そしてヘルスって、べつに健康食品とかじゃなくて、性的なサービスをすることだと考えたらいいようね。性的なサービスといっても性交渉は売春だから、これは法律違反。そうならない範囲で顧客の性的欲求を処理する仕事と考えたらいいみたい。まあ、「きっついお仕事」の一つに入るといえそう。
 それで本書は大森みゆき(仮名)さんが障害者専用デリヘルというお仕事の体験を紹介してくれている本なの。でもキワモノではないよ。最初に書いたように世間ではいわゆる風俗っていう世界はやっぱり陰の世界なのね。例えば「同和」教育に熱心なセンセイがデリヘル嬢を呼んで遊んだ、なんて言うとみんなから顰蹙を買うことはまちがいない。例えば「風俗っていうのは性の売買で、性の売買は女性の尊厳を否定しているから人権・同和教育に携わる人がなんてことをするのだっ!」なんて批難する人がいるかもしれないし、「そもそもそれはジェンダーの問題でして、そのようにジェンダーを一方的に押しつけることが……」なんて理屈をたれる人もいるかもしれない。
 しかし、障害者が性欲を持たないはずはないし、性欲を満たしたいということも一つの自己実現じゃないのかなあ。ところが、障害を持っているがゆえにその性欲の処理は健常者のようにはいかないことって想像がつくでしょ。実際に自慰そのものがままならない人だっているんだと思うの。彼女はこのお仕事を通じていろんな障害者の方と出会う。そして、いろんな形で彼らの性欲の処理に貢献するんだけど、世間っていうのはきっとこういうお仕事についてはフツーの風俗産業以上に眉をひそめるんだろうな。逆に言えば障害者は性欲を持っちゃいけない、恋愛や結婚は許されても風俗産業で遊んじゃいけないって思ってんじゃないかな。ともかくそういう偏見を彼女はどんどん打破していくんだ。
 ところで、彼女は介護体験はまったくゼロでこのお仕事に就いたのね。で、お客様と出会うたびに少しずついろんな技術を体得していくんだけど、あるお客様の時に性器を清浄綿で拭こうとしたとき本人はデイサービスで入浴しているからきれいだと思っていたらしいんだけど、そこには垢が真っ白にこびりついていたんだと。介護というのはきっと「性」の部分から目をそらしてしまうものなんでしょうね。だから見えないそういう部分には手は触れないのでしょうね。それにそこまでていねいに洗うべきだとも言えないしぃ。何しろすごくプライベートな部分だものね。
 これは介護の問題ではないと思う。そうではなくて介護と人間の「生」(生きるほうだよ)との〈はざま〉みたいなものがあるような気がして、だからそこって介護には絶対手の届かないところなのかもしれない。障害者の「性」(りっしんべんだよ)に向き合うことになった彼女はそうした手の届かないところに手をさしのべることのできる存在だったのだろう。世間からは二重の偏見を浴びながら…。

★★★★ これでまた読者諸姉諸兄の職業リストにひとつ「きっついお仕事」が加わったんじゃないかな。大森さんはこのお仕事にある種の職業倫理みたいなものを持っていたような感じがする。このお仕事への誇りなのかもしれない。人権・同和教育を考える上で、「障害者問題」を考える上でも、「いのち」について考える上でも、「しごととくらし」について考える上でも、「女性と人権」について考える上でも貴重な一冊。

レビュー投稿日
2010年4月4日
読了日
2010年4月4日
本棚登録日
2010年4月4日
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