WELL (Holly NOVELS)

著者 :
  • スコラマガジン(蒼竜社) (2007年2月21日発売)
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感想 : 61
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 面白かったです。
 死にたい田村さんの気持ちはとてもよく分かります。もう何も考えたくない苦しい辛い楽になりたい。
しのぶ達を助けるとき「次は彼らが自分を助けてくれるかも知れない」と言っていて、事実しのぶは田村の命を何度も助けたけど(伊吹を殺したけど)その度に苦しみが終わらず続いていくから、助けるって何なんだろうと思いました。
命が続くと、苦しみも続く。
感情と折り合いをつけてあきらめるか、麻痺して慣れてしまうまで続く苦しみから救われないで、しのぶのように狂ってしまうのを待てばいいのかなぁ。

 しのぶ優しいから、世界が狂ってしまって何より大好きな亮ちゃんが自分を置いて死んでしまうかもしれないと3日間一人で恐怖におびえているうちに一番はじめに狂ってしまっていたのは、しのぶなんだなと思いました。
怖い怖いとずっと泣いて、きっと今でも夜眠れなくて。
亮ちゃんに持っていくパンを奪うために人を殺して、亮ちゃんを殺そうとした人を殺して、亮ちゃんを殺すかもしれない人を殺す。

 人のものを命も含め奪っちゃいけないのは事実だと思う。けど、実際私たち日本人は多くの命を何も考えず、見向きもせず奪って、必要以上のものを搾取して使いもせずゴミにして生きているわけだからなんかなー。
生きるのって重いはずなのに何も考えていないのか、生きるのが重いと考えるのは当てられているだけなのか。
原罪って責任転嫁をしたことを責めてるわけで、過去に犯した行いを責めてるわけではないんですよね。
「罪」とは法律的・道徳的・宗教的な規範に反する行為。それに対して負うべき責任。また科される制裁。
って書いてあったから、追うべき責任って生きることなのかな。規範に反する行為なんてないのかなー。

 食べるものに困ってないから人を食べたいなんて思ったことないし食べたくないけど、人を食べてはいけないなんて言えない。
私たちの先祖のどこかできっと人を食べて生き延びた人の血が混ざってるだろうし、人を殺した先祖の血が通ってないわけがない。それを否定すれば今生きている人たちの存在を否定することになるの?
田村の信じてやまない神様は、きっとどんな人殺しでも許す。
人殺しにいい人殺しも悪い人殺しもなくて、人間が勝手に意味づけするだけ。
人殺しはいけないことだとは思うけど、人を殺すな=人を食うな=食わずに死ねってことになっちゃうと
それこそが凶器を持たぬ殺人なの?
でも地下の子達はきっと仲間を殺してまでは人肉を食べないとは思う。
ただ死んだ仲間の肉をどうするのかわからない。
しのぶは亮ちゃんに自分の肉を食べて欲しいだろうな。

 田村じゃないけど、自分の手で人を殺さず、奪わずにすむ今に感謝しようー。
このお話の結論は「生きましょう」でしたね。そうですねとしか言いようがない。
人間として生きるのではなく、動物としてでもって所がぐるぐるしたー!
ラブがないこともないけど、愛の形が原始的でした。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: BL小説
感想投稿日 : 2014年2月18日
読了日 : 2014年2月18日
本棚登録日 : 2014年2月16日

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