ぼくの住まい論

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  • 新潮社 (2012年7月27日発売)
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本棚登録 : 320
感想 : 55
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 内田センセイが「凱風館」を建てられた。「ぼくの住まい」とあるが、実は、「みんなの住まい」のようだ。1階は道場(能舞台付き)で、2階はリビング(宴会場+書斎)。道場はみんなの稽古場で、リビングは宴会場という開かれた発想がいい。さらに驚くべきことは、この道場を次世代に継承すべく、将来的には法人化まで見据えておられる。空間を開き、時間も開くという理論が「住まい」という形で具現化されているのは感動的というほかない。
 土地購入の経緯、建築家・画家・職人との出会い、木と土へのこだわり、林業への思いなど、この書物には「住まい」にまつわる哲学が凝縮されている。その哲学の極めつけは「住まい=アジール(避難所)」という考え方だ。確かに、人は弱い。困ったり、行き詰まったりした時には「帰ることのできる場所」「母港」が必要だ。そうした帰ることのできる場所としての「住まい」の重要性に気付かされる。内田センセイはレヴィナスの薫陶を受けた懐の深い思想家であることは今さらいうまでもないが、その思想を自然体であっさりと実践されている。
 だから、読み終わると『ぼくの住まい論』が、『ぼくのスマイル(smile)論』に思えて、思わず微笑んでしまった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 哲学・思想
感想投稿日 : 2012年10月28日
読了日 : 2012年10月27日
本棚登録日 : 2012年10月28日

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