鷲たちの盟約 上巻 (新潮文庫 ク 41-1)

  • 新潮社 (2012年7月28日発売)
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感想 : 13
5

あり得たかもしれない歴史を背景にしたミステリー小説。
アメリカでは1934年にフランクリン ルーズベルトが暗殺され、当然ニューディール政策は実行されず、それ故に大恐慌から立ち直れずに悪化し、40%を超える失業率、そういった社会状況がポピュリズム政治家を大統領とし、全体主義化したアメリカ。ハーケンクロイツよろしく南部同盟旗がはためき、まるでSAのようなごろつきが幅をきかせ、新聞用紙が国家統制となり、言論統制が実施されている1943年のアメリカ。一方ヨーロッパでは史実通り第二次世界大戦が始まり、ドイツはポーランド、フランスを征服しただけでなく、バトルオブブリテンに勝利し、イギリスまで征服し、ヨーロッパでドイツに対抗しているのはドイツだけ。これに対してもアメリカは英国を支援することは無く、ニューヨークに逃げ延びたチャーチルの活動の甲斐無く、(チャーチルは逮捕され)アメリカはドイツと軍事物資支援の通商条約を結ぼうとしている。
そういった世界背景を元にアメリカ、ポーツマスで腕に数字の入れ墨を彫られたやせこけた男の遺体が線路付近で発見され、その捜査をポーツマス市警の新任警部補である主人公サム ミラーが捜査を始めることで物語が始まっていく。

物語は下巻に進むに従い大きく動いていく。

この物語は1943年のあり得た可能性の上に書かれているが、これは現代アメリカにおいてもあり得た可能性の世界だ。アメリカのある一定の地域では今でも孤立主義的で、ポピュリズム的であり、ティーパーティー運動にもそれが良く現れていて、相変わらず経済の行方は不透明であり、何かのてこが働けばそうならないとは限らない。そういった点でこの物語は良く出来たSFであるし、主人公が最後に選ぶ選択肢は現在の民主主義に対する警告でもある。衆愚的な全体主義を生むのは民主主義であり、志のある優秀なものが指導しなければ正しい政治が行われ無いかもしれないと考えるかどうかなのだ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2012年8月6日
読了日 : 2012年8月6日
本棚登録日 : 2012年8月6日

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