「暴君」で知られる古代ローマ皇帝・ネロの伝記である。
主にスエトニウス、カッシウス・ディオの史書にあたりながらネロの生涯を描いた一冊。

望んでもいないのに権力欲の権化のような母により皇帝の地位に就かされ、常に母の影響下にビクビクする青年期。
しかしいざ皇帝の座に就けば、その権力が彼に反抗するための力と臣下を与えてくれる。
そしてやっとこさ母を排除した彼には、もうブレーキなど備わっていなかった。
今までやりたかったことを、のびのびと、皇帝命令としてその権限下でやりたい放題やった・・・。
ただそれだけの人物のように見える。

教育ママの手で訳も分からないうちに小学校受験をさせられて、エリート校に入るも、高校あたりでグレる子供みたいな人生である。
ただ、彼が手にしたのは、エリート校の学籍などではなく、当時世界一の権力者の座だったがゆえに、ここまでの「暴君」となりえてしまったという印象を受けた。

同時代史がほぼ残っておらず、後世の、すでに「暴君」としての評価が定まってからの史料しか利用できないゆえに、彼の暴虐性が強調されている面もあるようで、本当に実際は、悪人ではなく、無邪気なお馬鹿さんだったように思える。

2017年5月22日

読書状況 読み終わった [2017年5月22日]
カテゴリ 歴史

古代ローマの水道事情を、現役の土木エンジニアが語る一冊。

内容としては、主にフロンティヌスの『水道書』と、ウィトルウィウスの『建築書』を典拠に、古代ローマ及びその植民都市の水道事情や建築技術、それらの普及度合を概観する。

それ自体はそこそこに興味深いが、判明している客観的事実の羅列の観は否めなく、もう少し土木エンジニアならではの技術面からの解説(特に、古代ローマの技術が現在と比べてもいかに高水準であったか、素人にも分かるような解説)が欲しかった。(江戸時代と比較している場合じゃないよ)
精密な技術で建築されていることは何となく伝わってくるものの、著者自身がそのことを「凄い」だの「素晴らしい」だのという子供の感想みたいな表現で感心するばかりで、読み手としては少し物足りないのが正直なところ。
あと歴史的事実に関する確認が不足しており、明らかな間違いが頻出し、集中力が散ってしまう。出版社も少しは校閲してあげてほしい。

ただ、この時代に、ローマがいかに大量の水を供給し消費していたかと言う点や、帝国各地に同様の技術水準で給水施設を完備する体制(マニュアル化、教育、専門部隊の育成)を敷いていたという点は、やはりそれ自体驚異的で、実に興味深かった。

2017年5月14日

読書状況 読み終わった [2017年5月14日]
カテゴリ 歴史

帝政ローマの創始者アウグストゥスの伝記。

誰もが知っている偉人だが、どういう人物かは意外と知られていない人物ではなかろうか。
高校世界史レベルの知識で言うと、思えば不思議な人物である。
若くして突然カエサルの相続人として歴史の表舞台に出現し、革命派の一領袖として気づけば同僚らを圧倒し、元首政を始める激動の前半生と、
単独支配を実現してからの多方面にわたり国力を充実させる君主としての堅実さを示した後半生。
そんな多様な表情を見せるアウグストゥスの生涯と、その時代史を、可能な限り古代の文献を頼りに再現している。

前作ともいえる同じ著者の『キケロ』に比べると、拠って立つ資料の性質上、臨場感は少ない。
『キケロ』の場合個人的な書簡がどっさり残っていたので、個人としての肉声まで聞こえてくるようだったが、アウグストゥスの場合、特に支配権を握って以降は、個人的な通信は少なく、同時代の政治文書も豊富ではなく、後世の人の伝記に拠ることになり幾分か記述が客観的である。

そういう意味で読み物としての面白さとしては劣るものの、この共和政ローマ末期から帝政ローマの開始、そしてアウグストゥスの処世術と政治的手腕については存分に味わえる。
何よりこの人の本は、文章が平易で誰にも読みやすいのが素晴らしい。

ローマ史に興味を持つ人には必読といえるかもしれない。

2017年4月26日

読書状況 読み終わった [2017年4月26日]
カテゴリ 歴史

共和政ローマ末期を生きた、政治家・弁論家キケロの生涯。そして敗者から見た共和政ローマ史でもある。

キケロはカエサルとほぼ同時期に生き、名門の出ではないながらも執政官まで登り詰め、長きにわたってローマ政治史に影響を与えた人物である。
その立ち位置は、比較的穏健な閥族派(=保守派)であり、伝統を重視する古き良きローマを理想とした。
政治的には、最終的にはカエサル派に敗れ去った人物である。(カエサルより長生きはするが)
すなわち、キケロの生涯を丹念に追うことで、共和政ローマが何故機能不全に陥り、そのまま再起できずに、単独支配⇒帝政へと移っていかざるを得なかったかが際立ってくる。

本書はその記述の多くを、キケロが残した膨大な書簡や著作と言った一次史料に依拠している。
特に親友であるアッティクスに宛てた書簡を追うことで、キケロの心の動きが読み取れるようで、非常に臨場感がある。じわじわとキケロの理想が遠のき、政治的に追い詰められていく時期など、キケロの苦悩が伝わってくるようである。
登場する同時代の人物も生き生きと描かれており、スルスルと最後まで楽しく読める。

キケロは治世においては間違いなく能吏だった人物である。それまでの常識を持って混乱するローマを懸命に建て直そうとした。
ただ激動の時代はカエサルのような桁外れの人物を求めたのだろう。
歴史の面白みがぎゅっと詰まった一冊と思う。

2017年3月27日

読書状況 読み終わった [2017年3月27日]
カテゴリ 歴史

まさに子育て真っ最中の著者が、親の立場から「科学的なデータに基づく実践的な子育てアドバイスをまとめた」本があれば良いのに、という願望を自ら著作にしたもの。

主に脳科学や発達学、心理学といった分野の研究成果をベースに、より良いとされる子供との付き合い方をTIPS形式で紹介する。
主な対象年齢としては新生児~未就学児程度までをターゲットとしている。
テーマは「愛情」「語りかけ」「生活習慣」「遊び」「つながり」「しつけ」「動く」「スローダウン」の8章。

著者の目標通り、それぞれについて「科学的にはこう言われている。このように実践してみてはどうか」という形式で、1テーマをコンパクトに、要点だけを紹介していく。
(典拠は著者HPに掲載されているらしいが、英語読めないので。。。)

専門家になりたいわけでもない親の立場としては、科学的根拠と言うものを拠り所と思えるなら、確かにヒントに満ちた良い本だと思う。
逆説的だが、本書のどのあたりを多くチェックしたかで、いま自分が子育てのどの分野に悩みを感じているか自己診断できる。個人的には生活習慣、しつけのところで気になるところがたくさんあった。

あまり類書を読んだことがなく、かつ子供が対象年齢にはまっていれば、読んでみて得るところはあると思う。

それにしても、手にとるのが恥ずかしくなるような俗っぽいタイトル&デザインは勘弁してほしい。

2017年2月7日

読書状況 読み終わった [2017年2月7日]
カテゴリ 暮らしとお金

日本はGDP総額では世界3位の経済大国である。
しかし「人口一人当たり」で見てみると実は世界27位。その他、一人当たり輸出額は世界44位、一人当たり製造業生産額はG7の平均以下。
つまり、生産性がとても低い。
経済大国だなんて言って安穏としてはいられない。なぜならもう「総額では3位」を支えてきた「人口」が減り始めているのだから。

本書は日本経済が本来の力を発揮できていないという、日本人が案外直視したがらない事実を、国際比較で突きつけ、その原因を分析し、なぜ改革が進まないかも分析したうえで、処方箋を示すものである。

様々な国際比較のデータは興味深い。本当に「(生産)人口一人当たり」に置き換えると日本は悉く先進国での順位が低い。
なぜそうなったかと言えば、戦後~高度経済成長期にかけての爆発的な人口増加を背景にした「日本型資本主義」に固執しており、この20年の社会情勢の変化に全く適応できていないからと言う。

正直このあたりの指摘はなかなか面白い。
客観的なデータと、著者自身イギリス人という外部の目から見た日本文化の特異性という人間の目で見た分析がうまくかみ合い、説得力があるし読ませる。

それだけに、解決策の提示があまりに薄いのが残念。
曰く、年金機構を通じて、政府が企業に時価総額の向上というプレッシャーをかけるのが効果的と言う。
これについて、具体的にどの程度の企業に対し、どの程度の影響力(すなわち議決権)をもって行うのか?等の具体的ステップの解説がない。
ただ、海外でもこの方法で、大企業の効率が向上し、GDP向上に効果があったとさらりと述べるにとどまる。
このあたり、先行事例の具体的な制度紹介や日本への適応方法についての提案があれば、より良い一冊だったのだが、少し肩透かしで終わる。

とは言え、教養として一読しても損はないような一冊。

2017年2月7日

読書状況 読み終わった [2017年2月7日]

第二次世界大戦下のドイツの何の変哲もない街で起こる、一人の少女のドラマ。
里子に出された彼女は13歳で読み書きもまともにできない少女だったが、ふとしたきっかけで手にした本の影響で、徐々に本の魅力に憑かれていく。。。

タイトルからするとあまり想像できないが、泥棒稼業をメインに書いた話では全くない。
戦時下に繰り広げられる、一人の少女の青春であり悲劇である。
本書の最大の魅力は、人物描写の丁寧さにあると思う。
主人公・リーゼルは勿論、少なくともその里親のハンスとローザ、学友のルディ、運命の人物マックス、それと町長夫人と言った主要人物に関しては、もう本を読み切るころには、すっかりこれらの人物が自分の隣人として存在するかのように身近に感じられる「人間性」を持っている。
そして、色々な個性あふれる登場人物ばかりではあるが、共通して言えるのは「心の奥底ではみんな優しい」。限りなく、人間味のある人物たちとの、文字や本を通して紡ぎだされる貧しくも幸せな日々が心地よく流れる。

だから、ここまで丁寧に書いているから、
通常悲劇として盛り上げるべき最期の場面も、最低限の文章で構わない。
ただもう、全てが失われるという事実だけで10章は涙なしには読めない。(エピローグである程度救済されるが)
何でこの人たちがこんな目に遭わねばならないのか・・・と真剣に嘆息してしまった。

とは言え本書は、ヘビーなテーマも内包するが、全体的には、限りなく人間への希望に満ちた優しい物語だと思う。

本書末尾の一文が、著者の本作へのスタンスを全て語っているように思う。
「わたしは人間にとりつかれている。」
人間のことを、信じてやまないのだ。

2017年1月21日

読書状況 読み終わった [2017年1月21日]
カテゴリ オセアニア文学

「もしクレオパトラの鼻があと3ミリ低かったら・・・」で有名な、世界三大美女にも数えられるクレオパトラ7世を扱った概説書。

クレオパトラと言えば、様々な伝説に彩られた一個人としての特徴がクローズアップされがちだが、本書は「プトレマイオス朝の王として」どのようにふるまったかと言う、クレオパトラの政治的側面に主に焦点を当てている。
プトレマイオス朝の前史から始まり、古代ローマの内乱の一世紀(前133年以降)の政治史を中心に解説しながら、その中でクレオパトラが、王朝の存続のためにどのように動いたかを描いていく。

どちらかと言えば事実に基づいた客観的な記述が中心で、クレオパトラ個人に対する掘り下げは浅いかもしれない。
一方で、ローマ共和政末期史としては非常によくまとまっており、特にオクタヴィアヌスVSアントニウスの歴史的展開のさわりを学ぶのには持って来い。
当時エジプトが持った影響力という普段焦点が当たりづらい面も学べるという副次効果付き。

むしろローマ共和政末期史の入門書としてお勧めの一冊。

2016年12月28日

読書状況 読み終わった [2016年12月28日]
カテゴリ 歴史

「内乱の一世紀」の渦中にその足跡を刻んだ、弁論家にして政治家・キケロの概説書。

日本語で読めるキケロの概説書自体あまり数がなく、その点では貴重である。
1~7章まで時系列でキケロ自身の弁論家あるいは政治家としての活動が列記され、8章がまとめという体裁である。

キケロの弁論活動-著述活動は全て現実の政治活動や政治的状況と不可分に作用しあっているからこその上記の構成となっている。
浮世離れした哲学者でもなければ、自身の利害を優先し原理原則を持たない政治家でもない、地に足の着いたキケロの思索がいかに練り上げられたか。そしてその現実的な性質ゆえに後世に受け継がれていったことが8章を読んでようやく得心がいく。

8章の結論部分を読んで印象は良くなったものの、本書は読者に対してやや不親切で大変読みづらい。
文庫クセジュシリーズにありがちな、限られた紙幅に情報量を詰め込もうとし過ぎて、ほぼほぼ事実の列挙に等しい文章となっていること。登場人物については、ご丁寧に一切省略しないので、文章の大半をローマ人特有の長い名前(しかもラテン語表記付き)が占めているような感を受け、非常にテンポが悪い。
また同時代人を多数登場させる割には、当時の社会的・政治的情勢や政敵らの思惑などについての言及はほぼなく、既に十分な知識を持っている人ならともかく、初学者には分かりづらい構成となっている。

読者へのサービス精神という点を除けば、悪くない入門書。

2016年11月7日

読書状況 読み終わった [2016年11月7日]
カテゴリ 歴史

タイトル通り、共和政ローマを終焉に導いたカエサルの伝記。

元々は中高生向けに出版された本の文庫改訂版で、原著自体は1967年のものとのこと。
それゆえ、あまり詳細な史料分析や先行研究紹介などは省いて、時系列に沿って著者の考えだけが結論的に示されていく。
読みやすいと言えば読みやすいが、すこし論証の論理が伝わってきづらいところもあるし、腹落ち度はあまり高くなく、分量の割に「読んだ」という納得感が乏しい。

一方、著者が示すカエサル像自体は興味深い点もあった。

一つには、カエサルは共和政ローマの伝統の「枠内」で、「一人支配」を実現しようとした、という見方である。
結果的には共和政の政体を破壊したために、本人も当初からその気でいたのかと思っていたが、カエサル本人が支配権を獲得する手法としては、
「(ローマの伝統である)クリエンテラ関係の輪を、カエサルを中心に限りなく広めていく」延長線上に、一人支配を実現しようと考えていたとのこと。
彼の政治家としての行動の特徴である、民衆への大盤振る舞いや政敵への寛恕政策も、全ては自分のクリエンテラ関係に人々を組み込もうという観点から整理できるとのことで、これは面白い。
もう一点は、上記との関連で、彼自身が生涯非常に孤独を感じていたのではないかということ。
つまり、周囲との関係は全て「与える者」と「与えられる者」の関係(そうでなければ敵対関係)の中に整理されてしまい、本当の意味で対等の立場で理解しあえる相手がいなかったのではないかとのこと。
本書の記述だけでその点を確証的に窺い知ることは難しいが、これも著者ならではのカエサル像であるように感じた。

カエサル入門として、バランスが良いかと言われれば微妙だが、面白いことは面白い一冊。

2016年10月27日

読書状況 読み終わった [2016年10月27日]
カテゴリ 歴史

今季で球団社長を退いたばかりの、前横浜DeNAベイスターズ社長・池田氏の著作。

マーケティング本として売り出しているが、中身は池田氏の経営哲学本と言える。本人がマーケティングこそ経営の神髄と考えているからこそ、両面的な性格を有した一冊となっている。

DeNAに経営母体が変わっても、チームは相変わらず最下位争い。にも関わらず、前代未聞の勢いで来客数を伸ばし続け、球団財政を健全化し、球場のTOBまで成功させた池田氏の、経営に対する考え方が実例を交えて縷々語られる。

具体的な手法も参考になるのだが、それ以上に経営と言うものをどう捉え、どのように社内外と・仕事と向き合ってきたかをひしひしと感じられる。
漲る自信が文章を通じて伝わってきて、とにかく勉強になるだけでなく、勇気と元気が貰える良書。

2016年10月17日

読書状況 読み終わった [2016年10月17日]
カテゴリ ビジネス書

タイトルから想像される網羅的な字引きではない。
これから「ローマを知ろう」とする読者に対して、歴史・制度といった基礎知識にプラスして、人口・ライフスタイル・経済と言った当時の社会を概観することで、古代ローマに関する幅広い知識欲を喚起する「読み物」と言った書物。

具体的には、史料論、人種と社会身分、政治制度、小史、帝国論、人口、寿命、ライフサイクル、経済という9章から成っている。
「事典」を謳うだけあり、各章とも細かい項目ごとの簡潔で分かりやすい説明が続くが、それがしっかり織り重なって、次から次へと古代ローマ社会を描き出していく「読み物」としても成立しており、楽しく通読できる。
もちろん末尾の索引をもとに辞書的な使い方も可能だが、著者自身網羅性よりも読者の興味喚起に重きを置いたと語っている。

古代ローマの入門書や通史に触れて、より深く知りたいと感じている人にとって、更に興味関心の幅を広げることができる良書。
初学者から「古代ローママニア」に向けた橋渡しの一冊。

2016年10月13日

読書状況 読み終わった [2016年10月13日]
カテゴリ 歴史

5~9世紀ごろまでの、中世イングランド七王国の時代にういての一般教養書。

本書のスタンスは明快。歴史学者ではない著者は、とにかく幾多のヒーローが活躍したロマンあふれるこの時代の魅力を日本人に伝えたい、この一点につきると思う。

七王国のそれぞれ栄えた順に、各国の代表的な王を中心としてその盛衰を語る。
語り口は極めて平易、細かい歴史学的な考証は一切抜き。とにかく、エゼルベルト、レドワルド、エドウィン、ペンダ、オッファ、エグバート、そしてアルフレッド大王といった面々の遍歴を、著者自身の見解や感想も自由に織り交ぜて語ってゆく。

日本人にとって馴染みの薄いこの時代の、実に平易な入門編。というか一般向けの本としては七王国を取り扱っている本がほかに見当たらないくらい貴重。
ただ、紙幅の関係か、結構大づかみな記述で、少々淡白な印象の残る一冊。

2016年9月16日

読書状況 読み終わった [2016年9月16日]
カテゴリ 歴史

タイトル通り、東ゴート族の興亡を描く。

どちらかと言えば、主要人物の行動を中心とした記述。
著者自身歴史学者ではないので、歴史的な考証は行わず、ひたすら東ゴート族の動向を描写する。

日本語で読める一般向け書物で、東ゴート族に特化した本はほかに無いのではなかろうか。
そういう意味では貴重である。
テオドリックくらいしか知らなかっが、その前後史においても語るべき人物や出来事は結構起こっているし、親ローマ的な政策を取っていた東ゴートが、どのような経緯で東ローマに滅ぼされることになったのかを知れたのは良かった。

一方で、個人の行動や特に軍事的な側面にばかり着目し、統治政策や外交政策等の面から当時の国際関係を捉えるような、一歩引いた記述が少ないのが物足りない。
この時代のゲルマン民族の動向は、常に近隣諸族やローマ・カトリック教会、そして東ローマ帝国との国際関係の中で、絶えず揺れ動いていた時期である。
にも関わらず、重要な戦の布石となる、①東ゴート王家の統治の基本方針や具体的な施策、②近隣諸族の動向とその動機、というあたりにはあまり目配せがなく、東ゴートが戦乱に明け暮れなければならなかった理由が見えづらいし、5~6世紀の戦乱の世を東ゴート王がどのように泳いで渡ろうとしていたかが見えづらい。
(例えば、テオドリックは親ローマ的施策を推進して、法律や税制やその他文化的側面も含め、ローマ文化を尊重していたような記述を他の書物で見たが、本書ではただ東ローマ皇帝から如何にイタリア統治の大義名分を得たか、、、という面しか触れられていない。)

そんなわけで、結構詳細に事跡を追っている分、却って「もっと詳しく説明して」と思えてしまう、もどかしい一冊。

2016年9月9日

読書状況 読み終わった [2016年9月9日]
カテゴリ 歴史

タイトル通り、メロヴィング朝フランク王国の最盛期の王・クローヴィスの伝記である。

元来、クローヴィスへの評価と言えば、戦争は強いが粗野で狡猾、カトリックへの改宗もただご利益があったから(ためしに祈って戦闘に臨んだら不利を覆せた)と言う如何にも「征服者」然としたものであった。(堀米庸三の中公文庫版「世界の歴史」3巻)。

ところが近年の研究で、クローヴィスの人となり、業績、同時代人の評価が見直され、今では上述のイメージはすっかり過去のものとなっているらしい。
本書は同時代及び近い時代の文字資料と考古学をベースに近年見直されてきたクローヴィス像を概説する。

端的に言えば、
①クローヴィスは単なるローマに対する「征服者」ではなく、元々ローマ文化圏に属しており、ローマ文化・ガリアに根付いていたキリスト教文化を承継しながら新たな社会を築いた。
②ローマ教皇及びガリアの教会組織も、クローヴィスを、異端アリウス派に対する正統信仰の守護者、俗世における正統信仰の旗手とみなし、援助していた。
③クローヴィス自身もカトリックの守護者の自覚のもと、王権の根拠を神から授けられたものと定めることで、王権強化を図った。

と言ったようなところである。
堀米氏の著作は既に50年近く前のものであるが、その当時と随分イメージが変わったものである。
むしろ働きとしては、300年後のカール大帝と近しいものすらある。
ただ、ガリアの教会組織がクローヴィスを支援したのは確かなようであるが、ローマ教皇が当時のフランク王権にどこまで接近していたかは、本書を読んでもあまり読み取れないところで、著者の過大評価もあるようには感じた。

本書の叙述の特徴として、一次資料を中心にクローヴィスの業績を描き出すことを基盤にしている点がある。
これは当時の時代の雰囲気をよく伝えてくれている反面、クローヴィス個人の内面への切り込みは殆どなく、王個人の個性についてのイメージはあまり沸いてこないのが残念。

また本シリーズの常で、翻訳が下手なのも難点。
意味は分かるけど、いかにも直訳調の文章は読んでいて骨が折れる(稀に意味不明な分もある)。

そんな一長一短ある本ではあるが、クローヴィスの伝記自体大変貴重であり、当時のガリア社会を軽く知るには最適な一冊。

2016年8月31日

読書状況 読み終わった [2016年8月31日]
カテゴリ 歴史

帯にある通り「毎日、時間をかけて頑張っている。でも、成果が出ない」を地で行っている気がしていたので、ついつい手にとった一冊。

感想としては良い本なんだけど、普通。

あくまでサラリーマンコンサルタントとしてキャリアを積んできた著者によるものなので、「(会社組織における)いい(成果を出すための)努力」方法が述べられており、その意味では小ぢんまりとしている。
もちろん、そうはいっても伊達のキャリアではない。今日からでも取り入れたい心持や行動習慣がいくつも書かれている。

一方で、本書のスタイルは、売れ行きを考慮したのか、75のトピックに分け、各トピックを2~4ページで書いていくもの。
しかもかなり広範な分野(マインドセット、思考法、時間管理、行動法、チームのビルドアップ、会議術・・・)にわたって語られている。
このスタイルだとどうしても議論が散漫で深堀されず、著者の哲学全体が伝わってきづらく、自分自身の価値観が揺さぶられるほどの感動や衝撃はない。凡百のTIPS本とさして変わらぬ効用しか感じ取られないのが残念である。

悪い本ではないけど、しっかり本の構成を立ち読みで確認すればよかった。。

2016年8月24日

読書状況 読み終わった [2016年8月24日]
カテゴリ ビジネス書

日本語で読める数少ないカール大帝の評伝。
カール大帝と言えば必ず世界史で習うし、「カールの戴冠」は当然に聞いたことはあるけど、でも具体的にどんな事跡を残した人物かと言われると案外知られていない。

本書で描かれるカール大帝は一言で言えば「キリスト教帝国を築き"ヨーロッパ"を誕生させた人物」となるだろう。

カールが属するカロリング朝フランク王国は、8世紀の前半よりローマ法王権との接近が進んでいた。
当時のローマ法王はランゴバルド族の侵入に頭を悩ませながらも、ビザンツ帝国とは聖像禁止令以来関係が完全に冷え切っていた。俗世における新しい法王権の庇護者を求めて、イスラム教徒の侵入からキリスト世界を守ったカロリング家に接近をしていた。
自身らの王権の正当化・強大化を図りたいカロリング家と思惑が一致し、カールの父・ピピン3世の頃に法王権の支持によりカロリング朝は成立した。
カールが王位に就いたのは、このような流れで徐々にカロリング朝フランク王国の中に、キリスト教の庇護者としての使命感が浸透し始めていた頃にあたる。

カール大帝の治世前半はひたすら戦に明け暮れる。
ザクセン、バスク、ランゴバルド、アヴァールと、北へ南へ東へ、異民族征討に奔走するが、この背景には非キリスト教徒に対する「聖戦」、つまり単なる制圧以上に異教徒改宗を目的として行われたのだという。
制圧後の各地の統治にもキリスト教理念を浸透させることを柱に行われた。
「カロリング・ルネサンス」と一般に呼ばれる文芸復興活動も、基本はキリスト神学をベースにした知識人の育成を通して、教会体制の刷新を図ったものであったようだ。
「キリスト教帝国」という理念は、その知識人集団のなかでも特にカールに強い影響を与えたアルクインの発想によるものだったという。
カールの戴冠は、このようなキリスト者として法王の宗教的権威を柱とした治世の、当然の帰着点だったように思われる。
ここにおいて、キリスト共同体は政治的共同体としての意味合いも併せ持つようになる。キリスト教理念により緩やかに結合された政治的次元としての"ヨーロッパ"はまさにこの時誕生したと言えるだろう。

いささか、本書はカールをほめ過ぎと言うか、良い点にばかり着目している観はある。
しかしそれゆえに、カールが理想とした政治は何か、そして後世に対して如何に大きなインパクトを残したか。
そういったことがストレートに伝わってくる。
一般向け教養書としては十分、得るものが多い一冊だと思う。

2016年8月20日

読書状況 読み終わった [2016年8月20日]
カテゴリ 歴史

大人の学び直しで手にとった。

「一読でわかる」の表題に偽りはない。高品質の予備校の授業がそのまま運び出されてきたと言える出来。
重要事項を結構なレベルで抑えている(よく分からんが、たぶんセンターレベルならこれ一冊でもそれなりに乗り越えられそう)だけでなく、本書の特徴はとにかく説明が丁寧。

歴史の流れが分かるように「なぜ?」と重視していたり、制度・政策あるいは社会現象について、その中身や由来、それらが採択される(あるいは生じる)に至った背景の説明がしっかりなされているため、独学でも理解が進む。
また、横のつながり(同時代の別地域の出来事)への目配せも力点を置いていて、様々な切り口から知識を伝授されるため記憶にも残りやすい。

あくまで一読で「わかる」であって「記憶する」には多読であったりアウトプットが必要なのは間違いないが、大人の学び直しの観点でも十分楽しく学べる良書だと思う。

2016年6月21日

読書状況 読み終わった [2016年6月21日]
カテゴリ 歴史

大人の学び直しで手にとった。

「一読でわかる」の表題に偽りはない。高品質の予備校の授業がそのまま運び出されてきたと言える出来。
重要事項を結構なレベルで抑えている(よく分からんが、たぶんセンターレベルならこれ一冊でもそれなりに乗り越えられそう)だけでなく、本書の特徴はとにかく説明が丁寧。

歴史の流れが分かるように「なぜ?」と重視していたり、制度・政策あるいは社会現象について、その中身や由来、それらが採択される(あるいは生じる)に至った背景の説明がしっかりなされているため、独学でも理解が進む。
また、横のつながり(同時代の別地域の出来事)への目配せも力点を置いていて、様々な切り口から知識を伝授されるため記憶にも残りやすい。

あくまで一読で「わかる」であって「記憶する」には多読であったりアウトプットが必要なのは間違いないが、大人の学び直しの観点でも十分楽しく学べる良書だと思う。

2016年6月21日

読書状況 読み終わった [2016年6月21日]
カテゴリ 歴史

世界史の学び直しの第一歩として手にとった。
全ページ多色刷り、豊富な図版、最新の指導要綱を踏まえた構成。
簡明な説明の本文と、各ページの右端に関連する実際の入試で出題された問題文を付していて、学んだ傍からアウトプットできる構成となっている。さらに章末にはコラムを設けて歴史に関する興味を深める仕組みもある。

最初に手にとった感想としては、最近の参考書は実によくできているなあ、と感心した。
実に見やすい分かりやすい。

でも人類の起源から現代世界までの歴史が、370ページに収まっているのが、長所でもあり短所。
説明は簡明で良いのだが、それゆえに割愛されている事項も多い。別に知識量至上主義的な観点でそれを短所と言うのではなく、やはりあまりに簡明に過ぎると逆に歴史の流れや「何故?」が説明しきれず却って分かりづらいのである。
特に近現代史になるほど駆け足感が強く、モヤモヤ感が溜まる。

まずは世界史のアウトラインを思い出すのには良かったが、理解は深まらない。
学生目線から見ても同様の欠点はあると思うし、知識量で言ってもセンターレベル未満なので、使いどころが案外難しそうである。

2016年4月21日

読書状況 読み終わった [2016年4月21日]
カテゴリ 歴史

タイトル通り、若手社員(特に新卒)のOJTについての、心構えと具体的手法を説いた本。

著者は現場経験を経て長年企業の人事マンを務めた人物で、この分野の造詣が深く、簡潔ながらもエッセンスがまとまった良書。

OJTもPDCAが肝要との立場から、具体的なOJT計画書の作成・フィードバックを重視しており、その考え方も具体的で参考になる。
また、「こんな時、部下はこう思っている」という観点から、指示の仕方や相談の受け方、モチベーションの高め方なども書いてあり、中には今すぐにでも実践に移したくなるような項目もあった。

初めてOJT担当になる自分にとってはもちろん、一度もOJTについてやり方を学んだことのない若手社員には一読の価値ある。

2016年5月12日

読書状況 読み終わった [2016年5月12日]
カテゴリ ビジネス書

表紙には「「子どもができて妻が別人になりました」というあなたへ」とある。
初めて父親になる男性を対象読者にした、妊娠してからの妻の変化を解説した「イクメン入門」書。
ではあるが、これは出産を控えた夫婦二人が読むべき一冊だと思う。

いま、もうすぐ一歳になる子供がいるが、本書に書いてあることの半数以上(産後は7~8割かも)は体験したかもしれない。
はっきり言って、妊娠から産後に女性の身に起きていることのほぼ全てを男性は理解していないし、女性がどうしてほしいかもさっぱり分からないものである。(たとえ分かろうというつもりはあっても)
妻としては何故夫が自分のことを理解してくれないのかを理解できない。

このズレは脳やホルモンといった生物学的な差に由来しているゆえに誰にでも出来する事態であるため、そういう事態にはどう対処したらよいか、夫婦ともに本書を読んで予め夫婦で覚悟しておくことができれば、随分と精神的に楽になると思う。

出来れば産前に読みたかった一冊だが、今後の夫婦間をどうするかについても、第二子の時にどうすべきかについても、考えるうえで大変有意義だった。

2016年4月11日

読書状況 読み終わった [2016年4月11日]
カテゴリ 暮らしとお金

変わったタイトルの小説だな、人を食ったような内容なのかな、と思いながらページをめくると、まさかタイトル通りの話でした。

舞台は1942年のレニングラード。まさにナチスの猛攻を受け長い長い包囲戦の最中。
女子供の多くは疎開し、市民が自衛組織として駆り出され、物資は乏しく闇市が幅を利かせるようなそんな時期。
主人公の少年はたまたま見かけたドイツ兵の死骸から酒とナイフを盗んでいたところを憲兵につかまり、略奪罪で刑務所にぶち込まれる。
そのまま銃殺、かと思いきやなぜか解放され、秘密警察の大佐から一つの密命を受ける。
・・・来週の金曜日までに、卵を1ダース調達すること。

そしてともに刑務所にぶち込まれていた、陽気でちょっとズレた脱走兵とコンビを組んで、絶望的物資不足の中、戦場を横断して卵を探す旅に出るのである。

リアルな戦争描写と、奇妙なミッション。
むっつりと少しひねくれたユダヤ人少年と、戦時中にもかかわらず調子っぱずれに陽気なロシア人脱走兵との、ユーモラスで時にペーソスのきいた掛け合い。
このギャップがうまくかみ合い、明らかに奇妙でドラマティックすぎる筋書きの中にしっかり地に足ついたリアリティをもたせて、最後まで読み手を引き込んで離さない。

話としては冒険譚の類で、飛びぬけた目新しさもないし激しい感動もない。
それでも小説世界にどっぷり没入できる、良質なエンターテインメント。

2016年4月7日

読書状況 読み終わった [2016年4月7日]
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