クローヴィス (文庫クセジュ 831)

  • 白水社 (2000年9月1日発売)
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感想 : 5
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タイトル通り、メロヴィング朝フランク王国の最盛期の王・クローヴィスの伝記である。

元来、クローヴィスへの評価と言えば、戦争は強いが粗野で狡猾、カトリックへの改宗もただご利益があったから(ためしに祈って戦闘に臨んだら不利を覆せた)と言う如何にも「征服者」然としたものであった。(堀米庸三の中公文庫版「世界の歴史」3巻)。

ところが近年の研究で、クローヴィスの人となり、業績、同時代人の評価が見直され、今では上述のイメージはすっかり過去のものとなっているらしい。
本書は同時代及び近い時代の文字資料と考古学をベースに近年見直されてきたクローヴィス像を概説する。

端的に言えば、
①クローヴィスは単なるローマに対する「征服者」ではなく、元々ローマ文化圏に属しており、ローマ文化・ガリアに根付いていたキリスト教文化を承継しながら新たな社会を築いた。
②ローマ教皇及びガリアの教会組織も、クローヴィスを、異端アリウス派に対する正統信仰の守護者、俗世における正統信仰の旗手とみなし、援助していた。
③クローヴィス自身もカトリックの守護者の自覚のもと、王権の根拠を神から授けられたものと定めることで、王権強化を図った。

と言ったようなところである。
堀米氏の著作は既に50年近く前のものであるが、その当時と随分イメージが変わったものである。
むしろ働きとしては、300年後のカール大帝と近しいものすらある。
ただ、ガリアの教会組織がクローヴィスを支援したのは確かなようであるが、ローマ教皇が当時のフランク王権にどこまで接近していたかは、本書を読んでもあまり読み取れないところで、著者の過大評価もあるようには感じた。

本書の叙述の特徴として、一次資料を中心にクローヴィスの業績を描き出すことを基盤にしている点がある。
これは当時の時代の雰囲気をよく伝えてくれている反面、クローヴィス個人の内面への切り込みは殆どなく、王個人の個性についてのイメージはあまり沸いてこないのが残念。

また本シリーズの常で、翻訳が下手なのも難点。
意味は分かるけど、いかにも直訳調の文章は読んでいて骨が折れる(稀に意味不明な分もある)。

そんな一長一短ある本ではあるが、クローヴィスの伝記自体大変貴重であり、当時のガリア社会を軽く知るには最適な一冊。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 歴史
感想投稿日 : 2016年9月1日
読了日 : 2016年8月31日
本棚登録日 : 2016年9月1日

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