未成年 (Shinchosha CREST BOOKS)

  • 新潮社 (2015年11月27日発売)
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感想 : 54
5

今興味のある作家のひとりであるイアン・マキューアン。
普段だと購入派のわたしは出費を抑えるために文庫を待って購入するのだが、マキューアンの作品の多くが文庫化されていないようで、文庫化された「贖罪」は何故か現在入手が出来ない。そこで今回は奮発して、文庫を待たずに購入してみた。
すごいわたし。贅沢本読みさん。

女性裁判官フィオーナは、裁判官として様々な問題に向き合うと共に夫との夫婦関係の問題も抱えている。
そんなフィオーナの元に、信仰のために輸血拒否をする少年アダムについての審理が持ち込まれる。成年に僅かに月数の足りないアダムは、知的で思慮にも満ちている。この審理のためにアダムと会うことにしたフィオーナは、アダムと話し自分の考えをまとめる。

この作品に興味を持ったのは、やはり信仰と生死の問題という内容に惹かれてだった。
わたしはこの少年の信仰である‘ エホバの証人’ について個人的には知識はない。以前別の書籍の感想の際に述べたように、キリスト教とエホバの証人とを混同されたかたに気持ち悪がられて辟易したという程度で、だからといってエホバの証人について知ろうと思ったこともない。
ただ、信仰とは生きる支えでありより良く生きるための拠り所と考えるわたしにとって、信仰のために命を失っては本末転倒ではないだろうかと思ってしまう。勿論、個人の信仰に他人が軽々に口を出すべきではないので、こういう考えを家族以外に伝えることは基本ないのだが。
実際に日本でも‘ エホバの証人’ の患者が子供への輸血を拒否するという事件はあったように記憶している。その結果どうなったのかなど記憶にはないのだけれど。
こういう問題は医療や法曹の世界に関わるひとにとっては、非常に大きな問題となってくるだろう。信仰は個人的な問題であるため、一概にこれが正解と言えるものではないだけに大変難しいことだろう。
この作品でフィオーナが出した答えは一体どういうものだったのか、興味のあるかたは是非ご自分で読まれるといいと思う。

本作では他にシャム双生児の結合部離断術に関する問題もフィオーナは扱っている。
このことも以前、ベトちゃんドクちゃんという腰の部分で結合された少年のどちらかの機能が低下したかで離断するしないという報道があったと記憶している。
ベトちゃんドクちゃんの映像に衝撃を受けたと共に、ひとりの命のためにひとりの命が失われるということの是非に速やかに答えを出さなくてはならないという難しい決断に自分なりに頭を悩ませ考えたりした。
この問題も考え方は様々で、元々はひとりとして考えるというものもあるだろうし、心臓など一部臓器は共有しているものの頭部が別れていることからふたりは別の個性を持つひとつの身体という考えもあるだろう。
わたしとしては、明らかにどちらか一方の機能が低下し、それを補うためにもう一方がより負担をし結果命をも失うというのは余りにも惨いとも思える。だからといって、さっさと離断してしまえと言い切れる程後悔なく自信を持って言えるかというとそうでもなく。
この問題でもフィオーナの出した答えに興味があるかたはご自分の目で確認をされると良いだろう。

ひとつだけ言えること、裁判官って大変だ。
裁判官だってひとりの人間であって、神ではない。法律に基づいて決めるだろうけれど、信仰や命についてこうするべきだなどと言い切れるものではないだろう。
わたしには務まらない仕事だなと、敬意をこめて思う。

フィオーナの家庭での私人としての顔と裁判官としての公人の顔、このふたつの側面からフィオーナの心情を描いていく。
夫との問題だけでなく、裁判で関わったアダムとの問題も抱えて悩み惑うフィオーナ。
フィオーナがどういった結論を出していたのなら良かったのか。
いつものように無駄のない美しいマキューアンの文章で、生きるとは何か、信仰とは何か、また、人間の成長や成熟が描かれ最初から最後まで読者ひとりひとりに考えさせる深い一冊。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2016年3月16日
読了日 : 2016年2月28日
本棚登録日 : 2016年2月6日

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