東浩紀の「クォンタム・ファミリーズ」の第一印象は、藤子・F・不二雄的なSF(すこし不思議)をモチーフとしたサイバーパンクのように見えた。読み進めていくうちにいくつもの既視感を感じ、結局は同世代のオタクの感性を総動員したようなわかりやすいラノベスタイルに落ち着いたのだなと想像できる。
村上春樹やフィリップ・K・ディックをいたるところで引用しているが、ぼくとしては最後に読んだ東浩紀と大塚英志の対談本「リアルのゆくえ」で感情的に語られたことが非常に印象的で、だから検索性同一性障害なる病気が大塚英志の「多重人格探偵サイコ」に対抗しているようにしか感じなかった。
読了後とてもおしい作品だったと感じたのは、「批評から小説へ」というキャッチコピーの中で、しかしながら批評的なことは結果的になにひとつ語られなかったことだ。東浩紀は一貫してニートやオタクを擁護し、そこにこそ未来的なライフスタイルが隠されているようなことを主張している。だから、小説の中でそういったニートやオタクの未来的なライフスタイル像が語られるのかと期待したのだがそんなものはなかった。せっかくおもしろい物語の装置を用意した割には、オカルトめいた家族愛のファンタジーに終始したのは残念だ。だからぼくはとても惜しいと思うのである。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
小説一般
- 感想投稿日 : 2012年7月12日
- 読了日 : 2012年7月12日
- 本棚登録日 : 2010年10月20日
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