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淳水堂の本棚(淳水堂)


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淳水堂の本棚»

南米小説をメインとした海外小説、日本文学、漫画や絵本を並べています。ネタバレしていますのでご了承ください。

幻想文学 (59)

幻想文学企画室

/ アトリエOCTA / 2002年01月 発売



これも登録できるなんてちょっと感動。

「ボルヘス&ラテンアメリカ幻想」特集です。
作品紹介はなかなか充実。次に何を読もうか迷います。
バルガス・リョサのノーベル賞受賞で、このようなブックガイドが出ることを期待したんですがないんでしょうかね。


2011年11月09日 | コメント(0) | 南米短編 | 読み終わった |

伝奇集 (岩波文庫)

J.L. ボルヘス 鼓 直

/ 岩波書店 / 1993年11月16日 発売



一番好きな作家、アルゼンチンの巨匠、ルイス・ボルヘス。言葉で迷宮を作る人です。アルゼンチン出身で、幼い頃から諸国を周り、国会図書館長も勤め、その博識は神学、哲学に及ぶ。その文章は決して堅苦しいものではなく、読書オタクが自分の好きなものを自分の周りに集めて喜んでいるような、書物や言葉への純粋な喜びを感じる作家です。
私にとっては史上最高の作家なのですが、内容は難解で何冊読んでも何度読んでも理解できない。しかしそれが嬉しい。分からないから何度も読み返す愉しみが味わえる。こんなに好きな作家に出会えたということが本当に幸せ。

★★★
「伝奇集」はボルヘスの代表的短編集で、辞典・迷宮・夢・各地の伝承や神話の収集・入れ替わり・エッセイ・論文的研究文・南米気質の男達の話、などが収められています。

一番心に残ったのが「八岐の園(やまたのその)」。一応ミステリー仕立て。八岐の園とは一つの本で一つの庭で一つの迷宮。時間とは均一で絶対的なものではなく、増殖し分岐し交錯する無限の編目であるというボルヘスの世界観が出ています。

夢から生まれた男が別の男を夢により生み出し、自分は無に還っていく話 / 円環の廃墟

「神の御名の文字は明かされた」その迷宮は、ユダヤ教の律法学者、キリスト教の一教派、赤色、コンパスと菱型で出来ていた。
迷宮的殺人事件に取り込まれた警部と犯人の話 / 死とコンパス
★★★

ボルヘスの言葉をいくつか。
「私は作家になるよう運命付けられた人間だが、作家であるより読書家でありたかった」
後半生は盲目となり、アルゼンチンの国会図書館長となった時の言葉「天は私に書物と闇を与えた」ウンベルト・エーコの「薔薇の名前」に出てくる迷宮のような図書館の盲目の図書館長はボルヘスがモデルなのだそうです。


2010年05月23日 | コメント(0) | 南米短編 | 読み終わった (2011年05月23日) |

幻獣辞典 (晶文社クラシックス)

ホルヘ・ルイス ボルヘス マルガリータ ゲレロ 柳瀬 尚紀

/ 晶文社 / 1998年12月25日 発売



ボルヘスは、世界の神話や伝承、幻想譚などを取り入れた小説を書いている。これは古今東西の幻獣たちを集めたコレクション。正確な記述形式ではなく、そこから想像を広げボルへス的な解説が書かれていて読み物としても素敵。
一番最初に出てくる架空動物は「ア・バオ・ア・クゥー」どこかで聞いたような…?そう、ガンダムの要塞名ですね。監督が幻獣好きなんでしょうか。
解説では翻訳者がボルヘスを文学界の怪物として紹介。そうか、怪物が怪物を紹介している本だったのか。


2010年06月11日 | コメント(0) | 南米短編 | 読み終わった (2010年06月11日) |

ボルヘスとわたし―自撰短篇集 (ちくま文庫)

ホルヘ・ルイス ボルヘス Jorge Luis Borges 牛島 信明

/ 筑摩書房 / 2003年01月 発売



ボルヘス自編の短編集。本人の解説付きなので割りと分かりやすい。テーマもボルヘスお気に入りの物が多い。探していた相手(または対立相手)が実は自分自身だった、鏡、迷宮、ミステリー、南部の男たちの話。
しかし私のお気に入り「八岐の園」がないのが不満だ..。

★★★
この世のあらゆる場所が同時並列する場所、アレフ。そしてそれを背景にした男の嫉妬/アレフ

ボルヘス主要テーマである南部の荒くれ男の物語。一応ミステリー仕立て。最後の一文で殺人の犯人が浮かび上がる。/バラ色の街角の男

「一人の男が絶対的存在を求める」という小説「アル・ムターシムを求めて」の解説文、という形式をとり、「探していた存在が実は自分であった」というテーマの小説。
ボルヘス作品では、元小説は存在しないのにあるものとして解説だけ書くというのもよくある手口。/アル・ムターシムを求めて

人が決定的に自分の正体を見抜いてしまう一瞬を描写した作品/タデオ・イシドロ・クルスの生涯

奪われるために全てを与えられた男の話。 / 死んだ男

自分の行動を恥じ続けた男が、死に際して過去を死に直した話。 
いわゆるタイムパラドックスというようなものを哲学や宗教論から語った作品。 / もう一つの死

バビロニアの王が作った無数の階段や扉や壁の錯綜した青銅の迷宮に迷ったアラビアの王は、上るべき階段も押し開けねばならぬ扉も果てしなく続く回廊も行く手を阻む壁もない迷宮、すなわち砂漠を示す。
千夜一夜物語のような作品を書きたかった、という短編。
/ 二人の王と二つの迷宮

失踪した市政官を探しに来た主人公が迷い込んだインドの街。人々の言葉を辿り、付いた家で起きた出来事。そして事実を話しながら言葉の煙幕で主人公を留めた敷居の男。 / 敷居の男

★★★


2010年06月11日 | コメント(0) | 南米短編 | 読み終わった (2010年06月11日)

アトラス―迷宮のボルヘス (^Etre・エートル叢書)

ホルヘ・ルイス ボルヘス Jorge Luis Borges 鼓 宗

/ 現代思潮新社 / 2000年10月 発売



ボルヘス晩年の散文詩旅行記。全体的に穏やかで優しい雰囲気です。多数の写真は、秘書で最晩年に夫人となったマリア・コダーマによるもの。
一握の砂でサハラ砂漠を変えてみたり、ブリオッシュに物事の原型を見出したり、短歌に人間が存在していい理由を感じたり、ボルヘスの感性が出ています。


2010年06月11日 | コメント(0) | 南米短編 | 読み終わった (2010年06月11日)

砂の本 (ラテンアメリカの文学) (集英社文庫)

ボルヘス 篠田 一士

/ 集英社 / 1995年11月17日 発売




2010年06月11日 | コメント(0) | 南米短編 | 読み終わった (2010年06月11日)

ドン・イシドロ・パロディ 六つの難事件

ホルヘ・ルイス ボルヘス アドルフォ ビオイ=カサーレス Jorge Luis Borges Adolfo Bioy Casares 木村 栄一

/ 岩波書店 / 2000年09月26日 発売



ボルヘスと、カサーレスの共同著書。30年歳の離れた二人だけど、文学的には良い兄弟として交流し続けた。

★★★
まったくの無実で投獄された床屋のドン・イシドロ・バロディ。彼の元に難事件の相談が持ち込まれる。探偵役が牢獄にいるので、所謂「安楽椅子探偵」。ボルヘスはチェスタートンのような逆説的皮肉的探偵小説を好みその趣向が現れた事件。
事件解決としてはある意味屁理屈的ですが、純文学作家が趣味で探偵小説を書いているような、好きなことをやっている気楽さがあります。種明かしはボルヘスお気に入りテーマに沿っているので(殺した人と殺された人が実は反対だった、とか)ボルヘス作品数冊読めば大体カラクリは分かります(苦笑)。
また、バロディを訪れる相談者たちが饒舌で、自意識過剰で、これがラテン人種か?!と感じさせられます。
★★★


2010年05月29日 | コメント(0) | 南米短編 | 読み終わった (2010年05月29日) |

不死の人 (白水Uブックス―海外小説の誘惑)

ホルヘ・ルイス ボルヘス Jorge Luis Borges 土岐 恒二

/ 白水社 / 1996年08月 発売



ボルヘスの幻想文学集。


2010年05月26日 | コメント(0) | 南米短編 | 読み終わった (2010年05月26日)

パラケルススの薔薇 (バベルの図書館 (22))

ホルヘ・ルイス・ボルヘス 鼓 直

/ 国書刊行会 / 1990年08月 発売



ボルヘスを館長として編纂された文学シリーズ、「バベルの図書館」の一冊。自分が好きな作家の好きな作品だけを集めた文学シリーズを出すとはなんと贅沢な読書家なのでしょう。
イタリアから刊行されたシリーズですが、青を基調とした装丁が美しく、並べると美術館のようです。この「パラケルススの薔薇」には、ボルヘスの短編とインタビューが入っている。


2010年05月23日 | コメント(0) | 南米短編 | 読み終わった (2010年05月23日) |

チボの狂宴

マリオ・バルガス=リョサ 八重樫克彦 八重樫由貴子

/ 作品社 / 2010年12月25日 発売



ネタバレ  暗殺されたドミニカ共和国の独裁者トゥルヒーリョの最後の一日と、彼の暗殺に係わった者たち、そして故郷に複雑な思いを持つヒロインの物語とが入り組み、一国の歴史、人々の精神描写、時代の移り変わりを描いた長編。

★★★
35年ぶりに故郷ドミニカに帰って来たウラニア。故郷と父に禍根を持つ。
彼女が国を出た直後、ドミニカ共和国の総統トゥルヒーリョが暗殺されていた。
トゥルヒーリョは30年間に渡りドミニカを掌握していた。直感的に人を射抜く眼光を持ち、見せしめに側近を失脚させ自分への崇拝を高めさせるために復職させる気まぐれで熾烈な人物。アメリカの軍事介入を退け続け、「祖国の恩人」「大元帥」「閣下」と個人崇拝の対象として圧制をひき、反対派へは軍隊と秘密警察により徹底的に弾圧、虐殺を行う。小説の題名「チボ」は雄山羊のことで、精力の強さと狡猾さからきたトゥルヒーリョを示す隠語。しかしそんな精力的な男もすでに70歳を向かえ、体力は衰え前立腺の問題で尿漏れを抑えられず、自分が衰えていないことを証明するために女を召し上げる。頼りにならない身内には歯噛みをし、利用価値はあるが人物的には嫌悪を催す側近たちへの苛立ちは増すばかり。なにしろトゥルヒーリョが側近達に与えた綽名が「生き汚物」「酔いどれ憲法学者」「操り大統領」。
暗殺者達はそれぞれがトゥルヒーリョの側近であったり恩恵を受けた者だがそれぞれの理由で行動を起こす。
個人崇拝の国から共和制への変換は、表面的には他国に付け込まれず内乱にもならずそのままの政権での方向転換を成功させるが、裏ではトゥルヒーリョ暗殺の容疑で関係者も巻き込まれたものも次々逮捕され、苦痛を与えるためだけの凄烈な拷問と見境ない殺害が続く。
トゥルヒーリョの側近として政権の中心にいた人物たちもそれぞれの結末へ向かう。死ぬ男から発せらた恐怖に飲み込まれた者の末路、冷静かつ豪胆な賭けで時代の波を操ることに成功した者、忘れられてひっそり過去に生きる者。
物語の終盤で、ウラニアの恨みが明かされる。彼女は35年間苦しみ苛まされた過去を吐露するが、それでも完全に過去を越えることは決して出来ない。
★★★

この小説では登場人物の心理描写に重点を置いています。その人物はどんな人物でその時どんな心理状況だったのか。それによりなぜその行動に至ったのか、そしてそれが一人の人間だけでなく、国の歴史、民族の方向にどう影響したのか。
実際の出来事であるトゥヒーリョ暗殺を通した事実と、創作の人物であるヒロインウラニアとの物語が重なり合います。ウラニアの章は二人称での語りかけが使われています。「ウラニア。お世辞にも両親がこの名で彼女に恩恵を与えてくれたとは言いがたい。そこから連想されるのは惑星の天王星(ウラヌス)や鉱物のウランなど女性らしからぬ言葉ばかり。鏡に映った姿を見ればスレンダーなボディに艶やかな肌。繊細な顔立ちに憂いを帯びた黒く大きな瞳。なのに、その名がウラニアなんて!よくもそんな突拍子もない名前を考え出したものね。(・・・)生まれながらに負わされた奇妙奇天烈なこの名前、お父さんが思いついたの?それともお母さん?いまさら調べようとしても遅いわ、お嬢さん。あなたの母親はずっと昔に天に召され、父親はもはや生ける屍。真相は永久に分からずじまいよ」この語り手は作者ではあるのだけれど、女性口調なのでウラニアの自分への語りかけなのでしょうか。

あと私が日本人だからか目に付くのがバルガス・リョサ作品でちらっと覗く「日本」の記述。「緑の家」で略奪者の日系人が出てきたのは実在のモデルがいるからとして、「楽園への道」ではゴーギャンの画家友達の「日本という国では町人の全てが芸術家なんだぜ。農業の合間に画を描いているんだ」みたい台詞があり、本作では失脚したトゥルヒーリョの側近の左遷先が日本。この場面では(史実か創作かは分からないけれど)「こんなヤバイやつ日本に送り込まないでくれ!」と思ったんだが、まあ実際には日本には来なくてちょっと安堵。
バルガス・リョサご本人が日本に対してどのようなイメージ持っているんだか興味のあるところ。


2011年11月14日 | コメント(0) | 南米長編 | 読み終わった (2011年11月14日) |

楽園への道 (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 1-2)

マリオ・バルガス=リョサ 田村さと子

/ 河出書房新社 / 2008年01月10日 発売



ネタバレ  ★★★
夫との虐げられた結婚生活を逃れ、女性と労働者解放運動家になったフローラ。女性は夫の隷属物と扱われていた当時、自立した女は娼婦と同じ扱いを受け、娘は夫に誘拐され強姦を受けるがそれでも女性の訴えは聞き入れられない。怒りんぼ夫人、アンダルシア女と綽名される気性の激しさで、弾圧も無理解も病も跳ね除け、自らの身体も黒髪美女オランピアとの恋も、そして子供さえも顧みず、時には女としての魅力を振りまき自分の全てを運動に捧げる。
フローラの死後生まれた孫のポール。株の仲買人として妻と5人の子供と共にブルジョア生活を送っていたが、絵画にのめりこみ家族を捨て、狂ったオランダ人との共同生活の破綻後タヒチへと渡る。乱れた生活により“口にすることを憚られる病”を患い足は腐り視力は衰え、教会には反発し、金にはルーズな生活の中で、ヨーロッパ文明に侵食されていない原始の人間の力の象徴として、自分の幻のタヒチを描き続ける。

「楽園はここですか?」「いえ次の角です」
子供達の遊びはフローラの生まれ育ったフランス、父の故郷ペルー、そしてポールの渡ったタヒチの修道院でも見られる。
現実と折り合いをつけず、楽園を求め続けた二人の人生が交互に語られる。

文体は、作者がフローラとポール(作中ではタヒチでの呼び名の「コケ」と呼ばれる)に語りかける二人称。
「それはなんとか達成できるのだろうか。もしお前が体を壊していなければ、上手くいっただろう。もし神様がお前にあと一握りほどの生命をくれていたなら、きっと達成していただろう。けれどおまえは、必要なだけの年月を生きていられるという確信がもてなかった。きっと神様は存在していないのだ、だからおまえの言うことを聞いてくれないのだ。あるいは存在しているが、重要なことが沢山あって忙しく、おまえにとっては重要なことでも差込や傷ついた子宮のような小さなことには関わる余裕がないのだろう。毎晩、毎日お前は体の衰えを感じていたね。初めてお前は、挫折するのではないかとの予感に悩まされた」
「それをやったんだよね、フロリータ。心臓近くにある銃弾を、体調の悪さを、疲労を、お前の体力を蝕んだ不気味な慢性的な疾病を撥ね退けて、この最後の十八ヶ月でやってのけたんだね。あまり上手く行かないこともあったけれども、お前の努力や信念、勇気、理想が足りなかったからではないんだよ。あまり上手くいかなかったとしたら、この現世での物事は夢の中のようにうまくは運ばないということなんだよ、残念だね、フロリータ」

「描かなければいけないよ、コケ。もう久しくお前に侵入してくることのなかった精神の爆ぜる音が再びそこに戻ってきて、おまえに絵を描くよう要求し、活気づけ燃え立たせていた。そうだ、そうなのだ。もちろん、絵を描くのだ。お前は何を描くのか刺激され興奮し、鳥肌を立たせるような血の熱狂はお前の頭にまで上がってきて、自分が信頼できる存在であり、強大で、勝利者であると感じられて、おまえは木枠にキャンバスを張ってイーゼルの上にしっかりと平釘で留めた」
「喜んでくれよ、お前の夢を叶えてやったよ、フィンセント」とコケは声を張り上げて叫んだ。「ほらここに『愉しみの家』ができたよ。お前はアルルで俺の人生を酷く狂わせやがったが、憧れのオルガスムスの家だ。俺達が考えていたようなものにはならなかったけれどね。おい、わかったか、フィンセント」

★★★
バルガス・リョサ作品の中でも登場人物関係や小説のテーマがスッキリしているのでかなり分かりやすい小説。
ちらっと出てくるゴッホが相当エキセントリックで印象的。ゴーギャンの作品、「我々はどこから来たのか、我々は何者か。我々はどこへ行くのか」「マナオ・テゥパパウ」などが描かれた時の心情描写も多いので、画集片手に絵画解説としても楽しめる。


2011年03月26日 | コメント(0) | 南米長編 | 読み終わった (2011年03月26日) |

緑の家(上) (岩波文庫)

M.バルガス=リョサ 木村 榮一

/ 岩波書店 / 2010年08月20日 発売



「文学は熱い火だ」スペイン語圏の小説に送られる賞を取った作者の言葉。政治活動も行いペルー大統領に立候補したこともある。永遠のノーベル賞候補者。
⇒追記:2010年ついにノーベル文学賞受賞!これを機会にラテンアメリカ文学の復刊お願いします!

★★★
砂の降る町、ピウラに流れた男が建てた「緑の家」という娼館の過去と現在。アマゾンの密林と都会。インディオの娘を一族から連れ出しキリスト教の教育を強要する修道院。インディオを手下に詐欺や略奪を繰り返す日系人とその妻と仲間たちの物語。搾取する白人に抵抗しようとするインディオの末路。故郷に帰ってきた軍曹と、昔の仲間と、緑の館の娼婦となっていた軍曹の妻。
川の支流のように別の話が語られ、最後には壮大な一つの流れとなる。
★★★

南米文学ではまったく違ったものが同居し物語を為す。都会の町から少し離れれば原始の密林。生者と死者が語り合い、雑多な人種が混在する。搾取する者、される者、それらの中間にいる者。都会で文明は発達しても、密林では太古からの生き方もある。南米小説の特徴としていくつもの時代や場所が交錯し、時系列が錯綜するというものがあるが、その中でも特に錯綜している作品。

同じ段落で過去と現在の会話が混在し、いくつかのテーマが細切れで語られるため別の人物と思って読んでいたら同じ人物の過去と現在だったり、また同じ人物と思っていたら同じ名前を付けれらた別人の話だったり。しかし文章構成は幻術的であるけれど内容はきわめてリアリズム。
ストーリーの違いは文体の違いで表現される。一番過去と現在が錯綜しているのが略奪者の日系人の物語。病で療養序所に向かう現在に、それまでの過去がない交ぜに語られる。
話の中心であるピウラでの語り口も年代によって変わる。過去のピウラは三人称であまり心情は深く触れないことにより伝説的印象を深める。現在のピウラは意気のいい会話調で語られ、終盤は誰かが登場人物に語りかける二人称形。この語りかけが純粋に美しい。「これでいいのかどうか、最後にもう一度考えてみるのだ。人生とはこういうものなのかどうか、もし彼女がいなかったら、あるいは彼女とお前の二人きりだったらどうなっていたか、すべては夢だったのかどうか、現実に起こるこというのはいつも夢とは少しばかり違うのかどうか、よく考えてみるがいい。そしてこれが本当に最後だが、お前はもう何もかも諦めてしまったのかどうか、そしてもしそうなら、それは、彼女が死んでしまったからなのか、それとも自分ももう年なので、次に死ぬのは自分だと悟っているからなのかどうか、そこのところをよく考えてみるのだ」

場所も時代も表現方法もまったく違ういくつものストーリーが、ラストに向け別々のものが一緒になる感覚は読書の楽しみを味わえる。


2010年12月11日 | コメント(0) | 南米長編 | 読み終わった (2010年12月11日) |

都会と犬ども (新潮・現代世界の文学)

M. バルガス・リョサ 杉山 晃

/ 新潮社 / 1987年09月 発売



ネタバレ  ★★★
レオンシオ・プラド士官学校は3年間の寄宿学校。厳しい訓練と指導が行われ、親の手に負えない悪たれやひ弱さが鍛えられることを期待される子供が集まってくる。新入生は人間以下の犬っころ。学年同士の闘争も激しい。生徒たちにとっては教官の目をかいくぐってのいじめや売買や盗みや飲酒喫煙が日常。ここで生き残るには知恵と力が必要だ。文才と機転の利く“詩人”アルベルトはイカれた振りをして攻撃を煙に巻き、エロ小説とラブレターを売って金を稼ぐ。“ジャガー”は力で生徒たちに君臨し、組織を作り他学年と対立し、試験問題の売買を取り仕切る。ジャガーに逆らわなかった気弱なリガルド・アラナは“奴隷”と呼ばれ、いじめや盗みの対象となる。教官のガンボア中尉は生徒には厳しいがあくまでも軍律を守り中立に物事を判断するとして生徒たちから一目置かれる。
学校内で起きた試験問題盗難と密告事件、そして訓練の最中の生徒の死亡、それに対する殺人の告発。しかし学校関係の軍人は、殺人の告発を高圧な恐喝と左遷により握り潰す。
大人の監視下に置かれながら、大人社会の縮図を描き出す少年たちの世界を描いた作品。
★★★

バルガス・リョサ初期の頃の長編作品。
物語は、三人称で語られる学校生活、一人称で荒々しく語られる生徒の内面から見た学校生活、そして三人の生徒たちの入学前のエピソードが入り混じりあう。現在と過去の会話を交錯させることにより状況を浮かび上がらせる手法、同一人物か別人かが最後にならないと分からない構成、多くの目線から語られる文体の違いによる作品の厚さなど、バルガス・リョサらしい手法が使わる。

権力やワルが正義をねじ伏せる構造だけれど、終盤はねじ伏せられた側も男を貫いたり、新たな価値観を見つけたり、収まるところに収まったりと、割りとすっきりと読み終えました。


2010年12月01日 | コメント(0) | 南米長編 | 読み終わった (2010年12月01日) |

誰がパロミノ・モレーロを殺したか (ラテンアメリカ文学選集 6)

マリオ バルガス・リョサ Mario Vargas Llosa 鼓 直

/ 現代企画室 / 1992年08月 発売



ネタバレ  ★★★
警官のリトゥーマは惨殺された若者の死体を見つける。彼はパロミノ・モレーロ、歌とギターはプロ並み。秘密の恋人に歌を捧げるために軍隊に入隊したらしい。リトゥーマと先輩のシルバ警部補は捜査を続ける。シルバ警部補は金髪の白人でいい男。それなのに町のおデブの料理屋のおかみさんにいかれてる。
捜査では軍隊は非協力的。混血の一兵卒が軍隊エリートの家の娘と恋をするなどあるはずがない。人種や階級による差別が圧倒的に立ちはだかる中、二人はほぼ個人的執念で捜査を続け、関係者達の証言を通して事件の顛末を掴む。
しかし町の人たちからは「きっともっと大きな陰謀を隠しているに違いない」と信じてもらえない。そして軍隊の内部機密に関わったため二人も地方へ左遷される。「なんてぇこったい」
★★★

題名に「誰が殺したか」となっているが、誰が、なぜ、というのはあっさり分かる。テーマはペルーの中に当たり前にある階級や血による差別。またリトゥーマというのはバルガス・リョサ作品ではよく出てくるキャラクターなので、彼を通して一人の人間の心身遍歴を書いているような作品。ここでのシルバとリトゥーマが実にいいコンビなのでこれきりなのが残念。


2010年10月29日 | コメント(0) | 南米長編 | 読み終わった (2010年10月29日) |

官能の夢―ドン・リゴベルトの手帖

マリオ バルガス=リョサ Mario Vargas Llosa 西村 英一郎

/ マガジンハウス / 1999年11月 発売



若く美しく官能的な後妻ルクレチアを迎えた中年男性ドン・リゴベルトは新たな生活に満足している。特にエロチックな絵を見てからの行為は。
しかしドン・リゴベルトの息子アルフォンソ少年は無邪気を装いルクレチアを誘惑、二人は関係を持ってしまう。それを知ったドン・リゴベルトはルクレチアを家から追い出す。

…というのが前作「継母礼賛」。「官能の夢」はその続編。
聡明で魔的魅力のアルフォンソ少年が、父親とルクレチアとのよりを戻させようとルクレチアを訪ねるところから始まる。この家族の物語に、古代ギリシア神話や聖書を題材にしたポルノグラフィが差し込まれる。覗き、フェティズム、レズビアン…。その挿話も現実の家族の話もかなり際どく行為が書かれているのだけれど、どこか滑稽で楽しい。インテリ作家が楽しみながらエロス総括論を書くとこうなるのかという感じです。


2010年10月14日 | コメント(0) | 南米長編 | 読み終わった (2010年10月14日) |


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