コレラの時代の愛

  • 新潮社 (2006年10月28日発売)
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感想 : 110
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「ビター・アーモンドを思わせる匂いがすると、ああ、この恋も報われなかったのだなとつい思ってしまうが、こればかりはどうしようもなかった。薄暗い家の中に踏み込んだとたんに、フベナル・ウルビーノ博士はその匂いを感じ取った」
老いが来る前に自殺したジェレミア・ド・サン・タムールの検視に駆けつけたフベナル・ウルビーノ博士は、その翌日庭のマンゴーの木に逃げた鸚鵡を捕らえようとして転落死する。博士の妻フェルミーナ・ダーサは夫の通夜の席に記憶から消し去った男、フロレンティーノ・アリーサに気付く。フロレンティーノ・アリーサはフェルミーナに告げる。「私はこの時が来るのを待っていた。もう一度永遠の貞節と変わることのない愛を誓いたいと思っている」それはフロレンティーノ・アリーサが、フェルミーノ・ダーサに拒絶されてから51年9ヶ月と4日後のことだった。
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おそらくここまでが序章だが惹き込まれ方はまさしく大作家の面目躍如。
舞台は19世紀のコレラ時代。女を51年間待ち続けたという寓話的主題がガルシア・マルケス饒舌な語り口で現実世界に溶け込む。
物語では二人の人生が振返られるが、主体がいつの間にか入れ替わっている手法で、それが現実なのに夢の中を漂っているかのような雰囲気を生んでいる。
そして愛が主題ではあるけれど、恋愛ばかりが存在しているわけではない。
フロレンティーノ・アリーサはフェルミーナの影を心に抱きながらも何十人もの女性と関係を持ち、フェルミーナ・ダーサとフベナル・ウルビーノ博士との関係はけっして恋愛とはいえないが人生に必要な相手としての愛情関係を築いていた。
「しょっちゅう喧嘩をし、色々な問題に悩まされ、本当に愛しているかどうかも分からないまま何年もの間幸せに暮らすことができるというのは、いったいどういうことなのかしら」

本物の小説家が書いた小説世界にどっぷり浸れる作品。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ●南米長編
感想投稿日 : 2011年8月26日
読了日 : 2011年8月26日
本棚登録日 : 2011年8月26日

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