むかし・あけぼの 下 小説 枕草子 (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA (1986年6月11日発売)
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本棚登録 : 277
感想 : 20
5

「枕草子」をもとに、清少納言の生涯を描いた伝記的小説。
臨場感に溢れ、喜怒哀楽がすなおに染み込んで来る内容です。

聡明で優しい中宮定子(一般にはていし、ですがこの作品では、さだこ)のもとに仕え、この上ない幸せをかみしめていた清少納言こと清原海松子。
995年、定子の父・道隆が亡くなり、その弟の道長が跡を継いだことで、定子たちの運命には翳りが見え始めます。
1年後、定子の兄・伊周と弟・隆家が花山院との間に起こした事件で、流罪に。
二人は都を離れるのを嫌がって隠れたりと、無様な態度をさらすことに。
二人の沙汰が決まるまでの皆が固唾を呑む様子。そして清少納言の元には交流のある男性たちから、しばらく離れていたほうが良いという忠告が再三なされます。
定子の母も病の床に付き、定子は身重になったのに、有力な貴族は道長を畏れて誰も宿下がりを引き受けず、狭い家に移動することに。

当時は天皇の妻が何人もいても、何かと宿下がりをするので、同時に同じ建物の中にいることはあまりなかったのですね。
一条天皇が10代の頃から仲むつまじく、何年も寵愛を独占した定子。
他に妃が入った後も、二人の仲はゆるぎないものでした。
兄弟が流罪になった時に定子が髪を下ろそうとした事件は、世間に広まるというか道長らが広めたふうですが、天皇がこれを取り消します。
兄弟もじきに恩赦で都には戻りますが、無官の身で出世からは外れたままでした。

それでも定子を中心にした部屋の中では、皆がなごやかに機知に富んだ会話を繰り広げて、笑いに溢れていました。
清少納言は定子を慰め、定子や交流のあった人々の素晴らしさを後世に伝えるために、少しずつ「春はあけぼの草子」を書き綴っていくのです。

清少納言は別れた後も何となくよりが戻っている夫の則光と、ついに別れることになります。
無骨だけれど人がいい則光から見て、伊周らは主君の後ろ盾として頼むに足りないので、見かねて忠告しても清少納言のほうは聞く耳を持たない。
定子を見捨てることなど出来ようはずもないので、実はストレスが溜まっているから苛立ちが募ったのでしょう。
藤原棟世という大人の男性と再婚し、おだやかな幸せを味わうことに。のちに任地の摂津に下ります。
この作品では二人の間の娘(後の小馬命婦)は、棟世の連れ子ということになっています。

999年、定子が入内9年後に皇子を産むとき、道長の娘・彰子が(まだ少女だけど)いよいよ入内してきます。
紫式部は定子の死後に彰子のもとへ出仕したので、宮中でじかにライバル対決はありませんでした。
紫式部の作品が次第に流通する様子、モデルになったかと思われる実際の事件がちらほら出てきたり、興味深い。

後になってですが、式部が清少納言のことをわるく書いていたのも知ります。
あれほどの長い作品を書き上げるタイプの人間はこういうふうに暗いものを溜めているのだと思う清少納言でした。
清少納言のイメージが江戸時代に悪くなった原因の一つらしいですが‥
ここまで書くと書いてるほうの性格が悪い印象になるけどな?
式部も相当なストレスに晒されたのは想像に難くないです。

田辺聖子さんの筆は、さりげない文章でややこしいことをわかりやすく、実にこまやかにありありと描き出していますね。
愛情と共感にみたされている作品を読むことができて幸福です!

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 歴史もの
感想投稿日 : 2013年9月13日
読了日 : 2013年9月13日
本棚登録日 : 2013年7月28日

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