大臣 増補版 (岩波新書 新赤版 1220)

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  • 岩波書店 (2009年12月18日発売)
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 新総理大臣が1998年に著した本の増補版。行政の問題点や橋本政権での厚生大臣としての経験に基づく記述は旧版にもあったが、昨年10月に出た改訂版(本書)には民主党による政権交代で実現した国家戦略局の設置の目的などが書かれている。

 国家戦略局とは、首相官邸の機能を強化するために官民の人材を集結して、新たなヴィジョンを創り、政治主導で政策を策定するのが目的の内閣直属の組織である。

 興味深い記述は多い。例えば、私は政権交代前には閣僚による最高意思決定会議である「閣議」のニュースはほとんど目にも耳にしなかった。読んだばかりの『日本の統治構造』でも同じような記述があったが、閣議の実態はその前日の事務次官会議で決定された案件に署名するだけの「サイン会(お習字教室)」だった。

 事務次官会議というのは明治時代に内閣制度が成立して以来の法的根拠のない慣習にもかかわらず、100年以上続けられた制度。この制度には任免権者が存在せず、各省次官が横並びで全員拒否権を持つために省益優先の傾向に陥りやすくなっていた。

 そこで鳩山政権はこうして官僚による干渉を弱めるためにこの制度を廃止した。政権交代後に「閣議」という言葉が以前より頻繁に聞かれるようになったのは、そのためだったのか、と思った。

 菅氏はイギリスの官僚制についても言及している。イギリスでは「公務員の政治的中立性」が強く求められる。そのため原則的に政治家と官僚が接触することがなく、省益のために政治運動をすることは固く禁じられている。

 福田内閣の時に道路特定財源制度が問題になったとき、国交省が自分たちに頭の上がらない市町村を利用して制度を維持させる運動をさせた日本とは大違いである。

 他にも、興味深い記述は多い。
・自民党では6回当選すれば誰でも大臣になれたが、与えられるのは大臣のポストだけで、裏では官僚の言いなりである省内で孤立する傾向が強かった。そのため、大臣の任期が短くなりやすかった。
・政務次官(2001年廃止され、副大臣と大臣政務官を代わりに設置)の権限は事務次官より強いのに、単なる職務代行の傾向が強く、特定議員と結びつきやすかったため、族議員の養成機関になっていた。

 民主党政権が目指す「政治主導」というものが、当初の記述の内容通り、行き過ぎた官僚支配を改めて(=脱官僚)国民主権で政治を決定するものだとしたら私はその方針に賛成する。

 ただ、政治主導というのは、国民が今まで以上に政治に対して真摯に向き合うことを求められる、という責任の重さに対する記述が欲しかった。国民や政治家の官僚に対する敵愾心やルサンチマンだけではだめですよ、と。それから、旧版の記述の古さも気になった。

 『日本の統治構造』と通じる内容が多い当書だが、一方の著者は学者で、こちらの著者は政治家。同じ行政システムに関する記述でも、立場が違えばそれだけ内容が異なり、勉強になった。巻末の「国民主権の予算編成」の資料も参考になる。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 新書
感想投稿日 : 2011年6月6日
読了日 : -
本棚登録日 : 2011年6月6日

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