原発と日本の未来――原子力は温暖化対策の切り札か (岩波ブックレット)

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  • 岩波書店 (2011年2月9日発売)
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吉岡さんは、原子力委員会の委員を務めたこともあって、原発と共存していこうという人だ。それは、「世の中に絶対悪として無条件に否定できるものはない」もし、そうしてしまうと、原発推進派と議論の余地がなくなってしまうという。ここからは原発の危険性、問題点を克服しつつ原発と共存していこうという姿勢が伺える。「実質的に脱原発論者に近い」とも言っている。しかし、あの福島の原発震災が起きてからは、「共存すること」の難しさを認識し、脱原発に、より大きく舵をとろうとしているかのようだ。(第2章に2刷に際し、付記がある)どちらにせよ、本書は、現在の原発が置かれている現状に対する分析と多くの問題提起にあふれている。反原発の本はそれなりに刺激的だが、本書のように、原発と共存を計りたいと願ってきた人の書は、また別の意味で啓発される。第1章はそうした筆者の気持ちのゆれを語った部分である。第2章は長期停滞を続ける世界の原発の現況と原発ルネッサンスが必ずしも復活していないことを述べる。こういう情報はとても大切だ。第3章は日本の原発の現状分析で、日本でも原発は低成長であることを指摘する。問題が多すぎるのである。第4章はいわば「国策民営」の原発を早く独り立ちさせ、電力の自由化を進めるべきだと言う。この章でもっとも重要なのは、日本の政府がなぜ原発にこだわるかが書かれていることだ。それは、「日本は核武装を差し控えるが、核武装のための技術的、産業的な潜在力を保持」し、それを日本の安全保障の主要な一環とするという立場をとっているからである。「国家安全保障のための原子力」「原子力は国家なり」なのである。だからこそ、政府の立場からすれば、簡単に脱原発に転換できないわけである。

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感想投稿日 : 2011年5月8日
本棚登録日 : 2011年5月8日

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