ものの言いかた西東 (岩波新書)

  • 岩波書店 (2014年8月21日発売)
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一見、方言の東西比較の本かと思った。方言論には違いないが、一つ一つのことばがどうのこうのというより、いわば言語行動の方言論である。よくしゃべるとか無口かは個性と言える面もあるが、それが傾向として大きな集団について言えれば方言の違いということになる。より正確に言えば、方言の地域区分による言語行動、言語パターンの違いの論である。小林さんは東北(新潟)の出身で、東京を経て仙台に就職した。澤村さんは山形仙台を経て和歌山に就職した。小林さんは東京を経験し、澤村さんはおそらく関西圏のことばに日々触れつつあるのだろう。本書はこの二人の研究を下敷きに、多くの先行論文のデータで補強し、方言による言語行動のパターンを7つに定式化するとともに、それがなにゆえそうなったかを歴史的にさぐっている。その7つというのは、(1)発言性―口に出すか出さないか(2)定型性―決まった言い方をするかしないか(3)分析性―細かく言い分けるかしないか(4)加工性―間接的に言うか直接的か(5)客観性―客観的に話すか主観的か(6)配慮性―ことばで相手を気遣うか気遣わないか(7)演出性―会話をつくるかつくらないか である。(1)はたとえば、おしゃべりか無口かで、お礼を言う人は文句もいい、この傾向は近畿を中心とした西日本と関東に強く東北では弱いというようにである。また、(2)について言えば、東北の被災地で介護にあたった女性は「おはようございます」と言っても挨拶を返してくれなかったことにショックを受けたが、これは、東北ではそうしたときの定型のことばがなく、「おはようーはい」とか「はやいね」のような言い方をするからだそうだ。(3)の分析性では大阪弁が「言え、言い、言うて」のように命令形をいくつも言い分けるとか、痛いときに西日本では叙述と感嘆を「いたい/(あ)いた」と言い分けるのに、東日本ではどちらの場合も「いたい」ですませるといったふうに違いがあるという。いくつもの意味をもつ「どうも」が東北を中心としてよく使われているというのもこのタイプである。(7)では、観光バスのガイドさんがなにかしゃべったとき、関西の人はすぐに反応するが、これはめだちたがりというより、いっしょに会話をつくっていこうという配慮がそこにあるからだという。ぼくは関西の出身で、豊橋にきてすでに40年近くになるが、ここで言う西日本特に大阪人の言語行動はほぼ自分にあてはまる。本書はそうした、人々がなんとなく感じていたことを多くの研究成果を駆使し、大きな論をつくりあげている。その結論は方言周圏論を思わせるものであり、筆者たちはそれを(価値の優劣を含めない)言語発達の段階の違いと述べるが、それは未発達な地域が今後発達地域のあとを追いかけるのではなく、そこでの特徴をより発揮させる方向へ進んでいることを強調している。たとえば、東北方言はオノマトペや感動詞に富むが、それは東北方言が身体化された言語を発達させているのだと言う。各章にまとめがあり、8章にさらにそのまとめをおき、9,10章でその原因を論じる。本というのはこのように全体に体系性がもとめられるのだが、本書はまさにそれを徹底的に具現化したものである。(そこに、「どうだ」という筆者たちの誇らしい顔も浮かぶが)

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感想投稿日 : 2014年9月14日
本棚登録日 : 2014年9月14日

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