日本陸軍とモンゴル - 興安軍官学校の知られざる戦い (中公新書 2348)

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  • 中央公論新社 (2015年11月21日発売)
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モンゴルの独立をめざし倒れて行った者たちに対しモンゴル人が書いた鎮魂の書である。モンゴルは現在内外蒙古に分かれている。いわゆるモンゴル人民共和国はソ連によって共産圏に加わることで独立を果たした。それに対し、内蒙古と言われる地域は、日本と中国、それにソ連の間にあって、苦悩した地域である。本書は本来モンゴル人のための軍人を養成するためにつくられた学校―興安軍官学校のものがたりで、日本の陸軍士官学校で軍人としての教育を受け、そこで教官をしたジョンジョールジャブの生涯を中心に描いたものである。日本人はここで、モンゴルの独立、自決を担う軍人たちを養成しようとしたし、満州国成立後は五族協和の看板を掲げたものの、やがてかれらがうとましくなり、かれらの恨みを醸成していった。言ってみれば、日本はかれらを利用しようとし、かれらも日本を利用して中国からのモンゴル独立を果たそうとしたのである。中国からすれば、かれらは中国を分裂させる分子だというであろうが、モンゴル民族にとって中国はつねに独立を妨害する憎き国家なのである。中国の民族政策を見ていると、とても各民族を尊重しているようには思えない。モンゴル人にとって耐えられないのは、草原を開墾して農地に変えることである。これがよくないのは、草原は一旦開墾すると雨が少ないのですぐにだめになってしまうからだそうだ。だから、かれらは草原を求めて遊牧するのである。一方、日本のやり方で最もまずかったのはノモンハン事件で、日本人はモンゴル人たちを戦わせようとする愚挙に出た。その結果は、多くの離反兵、逃亡兵を生むことになった。ノモンハンの大きな敗因の一つはそこにあるというべきだろう。そして、日本の敗戦に際し、ジョンジョールジャブは日本の軍人幹部たちを殺害するという行動に出た。これはそれまでの恨みが爆発したものと言われるが、ぼくには原因はわからない。モンゴル人の中には、日本人たちを庇い、逃がした者もいたからである。自分を育ててくれた多くの日本人に恩義を感じていたジョンジョールジャブがどうしてそのような行動に出たのだろう。
 これを読むと日本人の中にも、モンゴルの独立を支援した軍人もいたが、かれらは変人扱いされた。その中心はやはり日本中心の大東亜共栄圏を打ち立てることにあったのである。

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感想投稿日 : 2016年1月28日
本棚登録日 : 2016年1月28日

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