レビュー by こういちろうさん
学校には通っていたものの、宿題もやらず、テストは受けるだけ、午前様まで人生について考えて授業中寝てばかりだった中学時代後半の私の人生を支えた本である。
私も、自分で全3巻製本して擦り切れるまで読んだ一人である。
第1巻は、第2巻以降ほどには宗教色が強くないので、多くの人になじみやすいだろう。冒頭の「仕事の上手な仕方」は、昔はドイツ語の教科書にも使われた名エッセイである。
「仕事の対象を分散させ、一度にでなく、少しずつ、代わる代わるにやるのがいい」
「働きの喜びは、自分でよく考え、実際に経験することからしか生まれない」
「わがスイスの美しい谷々は病院ばかりになったが、この病院もやがては、この安らぎを知らぬ多数の人々のために一年中開業することになるであろう。彼らはここかしこに休息を求めて動き回るが、どこにもそれを見出さない……なぜなら、仕事の中に休息を求めないからだ」
「よく働くには、元気と感興がなくなったら、それ以上強いて働き続けないことが大切である」
「あすはひとりでにやってくる。そして、それと共に明日の力もまた来るのである」
「本当の勤勉は、ただ休む暇もなく働き続けることではなくて、頭の中の原型を目に見える形に完全に表現しようという熱望をもって仕事に没頭することである」
私は、この本から、およそ19世紀までのヨーロッパの文学や哲学、政治や社会や歴史についての道案内をしてもらったという思いが強い。
ヒルティは、基本的にはカルヴァン派的なプロテスタントの信仰の正統派の枠を守ってはいるが、ヒルティ個人にとっての神は、教会の儀礼的な祈りの世界にはなく、あくまでも自分の内なる声としての神との親しい交わりの世界にあった。
そのことに気がつく時、同じスイスの生んだ後続世代、ユングのいう「たましい(Seele)」との真摯な関わりを思い起こさせるところがある。「超越機能」とユングが呼んだものと実は驚くほど接近した世界を内包しているように思えてならない。
登録日 : 2009年09月22日 10:34:29


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