歴史を精神分析する (中公文庫 き 3-6)

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  • 中央公論新社 (2007年6月1日発売)
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官僚組織は本来国民のためのものであるにもかかわらず、自己目的化し、仲間内の面子と利益を守るための自閉的共同体となっている。p31

日本国家の起源として、大陸および半島との現実的国際関係を否認して天孫降臨の神話、天から降りてきた神々が他国とは一切の関係をとらずおのれの力だけで独自に国造りをしたという嘘をでっちあげたところを出発点にしているのだから、歴史的必然性として日本で形成されるあらゆる共同体は自閉的共同体となる。

他方でアメリカは文明の名においてアメリカ先住民を大虐殺するという欺瞞を出発点にしてはじまった国家であり、ときどき文明の名において野蛮な他民族(日本、ベトナム、イラクなど)を虐殺することを繰り返すわけでここにも日本と同じような反復脅迫がみられる。

 著者は小学六年生のときに敗戦をむかえており、当初教えられた日本の歴史といえば天照大神の孫が天上から降りてきて(天孫降臨)さらにその曾孫である神武天皇が九州から大和に攻め上り(神武東征)初代の天皇に即位し、西暦紀元前660年にはじまりそれ以来万世一系の天皇が代々国を治めてきたという皇国史観に基づくものであった。

 日本は幕府体制のような、地方の下位共同体が、ある程度日本政府から独立して権力を保持しているような状態が一番無理のないところであるが、唐帝国の脅威による古代天皇制の成立(唐の皇帝のコピー)、十三世紀後半の蒙古襲来、十四世紀前半の元帝国の脅威を背景にしての天皇支配の復活(建武の中興)、ヨーロッパの帝国主義勢力(スペイン)を脅威として生まれた日本ではめずらしい独裁者タイプのリーダーであるとこの信長、そして明治政府が欧米諸国の脅威に対するためにかつぎだした近代天皇制(キリスト教の唯一神のコピー)など外的脅威にさらされた場合に天皇やそれに準ずる権威をたてる。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2016年1月11日
読了日 : 2016年1月11日
本棚登録日 : 2016年1月11日

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