内容は稀代の歌舞伎役者を陰でずっと支え続けた一人の女性のお話。
主人公の光乃は家業が傾いたため、叔母の家に身を寄せ、やがて歌舞伎役者の家に女中として働くこととなる。
その時光乃は18歳。
その歌舞伎役者の家には3人の男の子がいて、光乃は長男の雪雄に心惹かれるようになる。
やがて雪雄には特定の女性が出来、その女性との間に子供が出来る。
さらに雪雄は別の女性と結婚。
雪雄つきの女中となった光乃は新婚夫婦の家庭で激しい嫉妬に日々苦しむ。
そしてその嫉妬心がほんのボタンのかけ違いで不仲となった夫婦の間を決定的にとりかえしのつかないものにし、雪雄は離婚する。
やがて戦争が始まり、雪雄と二人で暮らす光乃。
その内二人は主従の関係を越えた仲になる。
この雪雄という人、ワガママで内弁慶で神経質、気に食わないことがあるとすぐに暴力を振るうんですが、性根は誠実で真面目、それも不器用で一人では何も出来ないので憎めない。
こういう男をほっとけない光乃の気持ちも理解できます。
それにしても憧れの人と添い遂げたとはいえ、最初はその状況を有難がっても段々と人間ってその幸運を当たり前と思うようになり少しずつ傲慢になっていくもの。
それがこの光乃にはないのがすごい!
決して自分は前に出ようとせず、謙虚に控えめに。
昔の耐える日本女性という感じです。
このタイトルの「柝の音」は舞台の始まる合図の柝の音のことです。
まだ光乃が雪雄にとってはただの女中、名前すらろくすっぽ覚えられてない時、ふと雪雄に
「どんな芝居が好きか」
と聞かれます。
その時に光乃が「何よりも好きなのは、きのねでございます」
と答えるんですが、それに雪雄が大笑いして
「きのねとはいわないの。柝はたくと読むらしいが、芝居では柝を打つ、とか柝を入れる、柝が鳴る、とかいうね。強いて言いたかった柝のおと、ならいいよ」
と言いそれから光乃を「きのね」と呼ぶようになったところからつけられてます。
舞台の始まりを告げる「柝の音」の緊張感、清清しく強い音は主人公の光乃さんそのものだったのじゃないかと思います。
- 感想投稿日 : 2013年8月6日
- 読了日 : 2010年4月
- 本棚登録日 : 2013年8月6日
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