突風 (中公文庫 A 9-6)

著者 :
  • 中央公論新社 (1974年3月10日発売)
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感想 : 7
4

推理作家のイメージが強い松本清張ですが、この本ではそれらしいのは最初の1作目だけ。
後の6話は人間模様、人間心理を描いた話となっています。

『金庫』の主人公は安月給で働くサラリーマン。
彼は同僚と古新聞を持ち寄っては倉庫で読むことを楽しみとしている。
そして、自分たちの住んでいるC市でかつて起きた啓道事件に興味をもつ。
啓道事件とは、啓道会という新興宗教の支部長という立場であったある女性が起こした事件で、彼女が着服しているであろう金の一部、500万ほどがまだ行方不明であるという事に彼らは着目する。
その金の行方はどこに?
ヒントは別の古新聞の記事にあった。

これは残酷な話だと思った。

『突風』は夫が浮気をしている事を知った主婦がその相手であるホステスの女性に会いに行く事が発端となった話。

とても皮肉だけど、人間の心理ってそんなもんだろうとも思う話だった。

『黒い血の女』はタイトル通り、どす黒い血の流れる女が生家の財産を後を継いだ妹のものにしたくないと画策するという話。

『理由』は何もかも水準以上でよくできた妻に飽きてきた男の話。
男は妻とどうやったら円滑に別れられるか画策する。

『結婚式』は出来すぎた妻と浮気をする夫の事を側で見てきた第三者の目線による話。
彼らのことを思い巡らすのが結婚式の場というのが皮肉。

『「静雲閣」覚書』
元子爵のお屋敷で今は高級割烹旅館「静雲閣」を買った男性。
彼は庭の隅に建つボロボロの土蔵に目をとめ言った。
「ここに以前は小さな建物があったはずです。そして、或る狂人が住んでいたといいます」
彼はその夜、女中相手に自分が何故その事を知っていたのかを話し始める。

『穴の中の護符』は江戸時代の根岸が舞台。
身寄りのない死体を引き取りに美しい女が現れる。
翌朝、その界隈の何軒かの家の庭に穴が掘られ、その穴に伏見稲荷の護符が撒かれるという陳事件が起きる。
先の死体を引き取った件と護符の撒かれる事の因果関係とは-。

読んでいてどれも登場人物が素朴だし、時代も素朴だと感じました。
その上に成り立った話ばかりで、今の時代では成立しないものばかりです。
だけど陳腐さは全くなく、さすがだと思いました。
やはり本当にいいものは時代を超えるんだな~と実感です。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2013年7月5日
読了日 : 2013年3月15日
本棚登録日 : 2013年7月5日

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