宿命と真実の炎

著者 :
  • 幻冬舎 (2017年5月11日発売)
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本棚登録 : 632
感想 : 91
4

読み応えのある本だった。
途中、犯行動機がちょっとな・・・となったけど、それも最後の2ページで「なるほどな・・・」と腑に落ちたし。
この本では警察官を連続で殺害する犯人目線と、それを追う警察側の人間目線と両方向から描かれている。
それはただ、犯人、それを追う側の2つだけでなく、警察側の人間の話もいくつかのパートに分かれ、元刑事の男性の話もそれに加わっている。
そのせいで、どうにも話がこまぎれの印象になり、面白くなってきた・・・と思ったら他のパートの話にうつってしまうので読んでいてどうも入りこめない・・・というのがあった。
さらに、犯人が特定されているのに、追う立場からするとそれが何故だかしっくりと当てはまらない。
それがもどかしくもあり、興味を惹かれ面白くもあった。

最初に殺されたのは白バイ隊員の男性。
最初、それはただの事故で処理されていたが、その後、警察官が殺されるという事件があいつぎ、それも事件扱いとなる。
事件を追うのはまだ若い女性刑事。
やがて、事件の容疑者は挙げられるも、彼女はそれは冤罪では・・・?と疑いをもつ。
彼女は事件を追う内にいきづまり、それを打開するために元刑事の男性に協力を求める。
そして、ある冤罪事件にいきあたる。

事件の犯人は警察に恨みをもつ若い男女。
十八年前の冤罪事件と彼らの行為の関連はー。

個人的に、好ましく感じられる登場人物が多かった。
ある事情により刑事の職を辞さないといけなかった男性は誠実な人だと思うし、彼の兄も完璧な人間でいながら嫌味がなく、素直に人格者だと思える。
主人公の一人である若い女性も優秀で正義感にあふれている。
それなのに、自分の容姿にコンプレックスを抱き、上下関係が厳しく、男尊女卑な警察という職場で悩み、人間的に成長していく。
彼女とコンビを組んだセクハラ上司も実は優秀で憎めない人間だし、お笑い芸人のような容姿でいて実はキレ者というエリート刑事も外内の差が見ていて面白い。
他にも人間味のある上司やどんだけ本読んでるの?という偏屈っぽい古本屋のオヤジもいい。
登場人物が完璧に生きていて、この世界って実在しているんじゃないか?と勘違いするほど。
・・・というか、読んでいる時には完璧にそうだと思って読んでいた。
まるで、本を開いたら絵が立ちあがる絵本を読んでいるような感じだった。

前に書かれた本に比べて、あまりえぐい事は具体的に書かなくなってるな~とは思ったけど、それも物足りないではなくて、上品に感じられたし、そういうのはどうでもいいやって感じられた。

ほとんどないに等しいような細い線から犯人を挙げる刑事の執念や熱意。
己の出世のためだけならそこまでできないのでは?と思った。
ここで登場する刑事たちからは刑事という仕事に対する矜持、自身に対する誠実さが伝わってきた。

この話、まだ終わってないように思う。
元刑事の男性のこれから、女性刑事の今後の様子を見てみたいと思った。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 貫井徳郎
感想投稿日 : 2017年7月19日
読了日 : 2017年7月19日
本棚登録日 : 2017年7月19日

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