木暮荘物語

著者 :
  • 祥伝社 (2010年10月29日発売)
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木造のオンボロアパート木暮荘の住人やその人々と関わる人々の物語。
全7話。

「シンプリーヘブン」
木暮荘に住む若い女性の話。
彼女が彼と部屋で過ごしている所に、長い間行方不明になって自然消滅した元カレがやって来る。
そして、何故か女一人と男二人の奇妙な生活が始まる。

「心身」
主人公は木暮荘の家主である老人。
彼は死ぬまでにもう一度セックスしたいと思っている。
そして、1話の主人公のカレに相談、デリヘルというものを知り若い女性を呼ぶが、そこに妻が現れてー。

「柱の実り」
駅のホームの柱に妙な突起がある事に気づいたトリマーの女性。
その突起はやがて青いキノコになる。
そして、同じようにその青いキノコを見る男性と彼女は交流をもつようになる。

「黒い飲み物」
1話の主人公の女性が勤める花屋の女主人の話。
彼女は夫が浮気をしているのでは?と疑う。

「穴」
木暮荘に住むサラリーマンの話。
壁の薄い部屋に響く女性のあの時のあえぎ声が気になった彼は思わず壁に穴をあけてしまう。
あえぎ声が階下の女子大生のものだと気づいた彼は床にあいた穴から階下を覗くようになる。

「ピース」
「穴」で覗かれていた女子大生の話。
子供ができない体と診断された彼女は男と遊びまわる。
そんな彼女の元に友人が赤ちゃんを連れてきて、そのまま赤ちゃんを置いていってしまう。
彼女は一週間、赤ん坊の面倒をみることになる。

「嘘の味」
1話で登場した元カレの話。
彼は花屋に勤める元カノをストーキングしている時に、花屋の客である女性と知り合い、彼女と同居する事になる。

読んでいる間、ずっと、いい意味で印象が変わっていく本だった。
最初の話を読んだ時は「これは木暮荘の住人の事を短編にして書いた本なんだ・・・」と思い、三角関係の話なのに、どこかまったりした印象を受けた。
2話は木暮荘の家主の話でやっぱり・・・と思った所、3話目は木暮荘のペットである犬と関わるというだけのトリマー女性の話で、「あれ?」となった。
そして4話目はちょっとそれまでと違う印象のシリアスな話になった。
まったり感からほろ苦さ、時折緊迫感とユーモアをまじえて・・・という話。

どの登場人物も愛すべき普通の人たちという感じで、特に私は女子大生が好ましいと思った。
住人に挨拶すらしない、今時の言葉を使い、複数の男とつきあう・・・表面だけ見たら感じ悪い女の子だなと思うけど、その内面を見ると愛しい面が見えてくる。
彼女の寂しさやたくましさ、鷹揚さ・・・とてもいいと思う。

こんな風に実際の隣人もその人たちの内面の人間らしさを見た時に愛しさをちょっと感じられるのだろうな・・・と思う。
そうなると、ちょっとした物音だとか、マナーがなってない!と思う面も許せるように思う。
ぐんぐんこちらに入って来るような、自己主張するつきあいはしんどいけど、これくらいの関わりは欲しいな・・・あればいいな・・・と思った。
この本の人間関係はいい感じの現代風な関わりで、この世界のどこかにあるかもしれないな・・・と思える素敵な話だった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2016年11月12日
読了日 : 2017年3月16日
本棚登録日 : 2016年11月12日

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