レビュー by かわさん
いくら不可知な人間の精神とはいえ、自然界の法則に逆らうことはできない。イーガンは数学をはじめとした大変な科学の知識で(文系のため、どんなジャンルの学問かもすでにわからない。汗)、人間の行動の決定や、愛や憎しみの感情を、どんどん因数分解していってしまう。各短編には、しょせん人間も機械の部品の組み合わせにすぎないのだという趣旨の文章がちらちら見える。しかし読み終わると、いやそうではないという思いが、まったく理屈ではないところから立ち上がってくる。
この短編集の最後2編はなかでも難解で、多元宇宙論をテーマにしている。全然わからないままとにかく最後まで読んだら、あれっと思う関連が隠されていて、また読み直した。すると、初読より断然得るものが多かった。イーガン独特の科学法則のたたみかけのような、やや退屈に思える部分が実はセンチメンタルなメタファーであることに気づいたのだ。その一瞬のひらめきはまるで天啓だった。他にもないかとページを繰ったけれど、残念ながら同じ感覚はもう訪れなかった。
理系の人なら感知できるのだろう、ロジカルな文中にそっと埋め込まれたイーガンのセンチメントを、私はずいぶん見逃してしまっているのだろう。それでもかすかな気配だけは感じることができる。それが彼の小説を苦労しても読みたいと思わせる“行動原理”なのだ。
レビュー登録日 : 2010年07月05日
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