未来の想い出 (ビッグコミックススペシャル)

著者 :
  • 小学館 (1992年9月1日発売)
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感想 : 6
5

手塚治虫、寺田ヒロオ、鈴木伸一、森安なおや、つのだじろう、石森章太郎、藤子不二雄、赤塚不二夫、園山俊二などなど、"新マンガ党"と名乗っていた層々たるメンバーが一緒に暮らしていたという伝説のアパート"トキワ荘"。そして今はなきトキワ荘や、その頃の漫画の状況、また漫画家の生活を知る術として最も有名なのが藤子不二雄Aの作品『まんが道』(続編『愛…しりそめし頃に…』も含む)である。

トキワ荘を出た後の2人は互いにその頭文字を取って、藤本先生はF、我孫子先生はAと名乗り、解散・独立された。その後のF先生の代表作は子供向けの明るい夢を描いた『ドラえもん』、A先生の代表作は大人向けのブラックユーモアで現実を切り取った『笑ゥせぇるすまん』というように、それぞれの個性が作品に色濃く反映されている。

また一般的に藤子・F・不二雄先生はA先生に比べると、自分自身の事を作品内で語ることは非常に少なく、『まんが道』で自分を主人公として登場させたA先生とは、その点でも対象的である。わかりやすく言えば、A先生はアーティスト、F先生は職人なのであった。そのクールな視点は、例え大人向けの短編であっても一貫していた。しかしだからこそ大人になったファンは知りたい。『ドラえもん』、『パーマン』、『21エモン』、『TPぼん』、『エスパー魔美』、『チンプイ』などなど、あんなにも大量に名作を産み出して、子供時代の僕らを楽しませてくれたF先生のルーツを。トキワ荘での青春時代に一体何を考えていたのかを。

そんな作品と作家を切り離して考えている職人気質のF先生も、実は晩年に1冊だけ自伝漫画を発表していたという事実はあまり知られていない。それがこの『未来の想い出』。当時、森田芳光監督、清水美砂・工藤静香主演で映画化もされた、まさに藤子・F・不二雄版の『まんが道』である。

この作品の主人公である漫画家・納戸理人のヒョロっとした体格や、ベレー帽とパイプなど、紛れもなくF先生自身で、"ナンドリヒト"という名前は、"何度もリピート"の文字りであり、F先生お得意のタイムパラドックスものの漫画。納戸が何度も人生をやり直せるとしたら、果たしてどんな未来を択ぶのかという、恋の物語である。やはりここで描かれているF先生もトキワ荘のメンバーと思われる人たちとはあまり交流せずに、一人部屋にこもって漫画を書いている姿が実に微笑ましい(笑) さすがに自伝というのはあくまでモチーフにして、ひとつのSF漫画作品として非常にまとまっているが、だからこそF先生の当時の立ち位置や、晩年に考えていたことがより浮き彫りになっている。

近年、子供向け作品ではないSF短編集などは評価を得ているが、この『未来の想い出』はしばらく絶版であった為、意外と知られていない。現在は小学館より"藤子・F・不二雄大全集"の一部として、同じく晩年の名作『中年スーパーマン左江内氏』とのセットとして手に入るので、 http://www.amazon.co.jp/dp/4091434851 今こそ藤本パパに育ててもらったかつての子供たちは、恥ずかしがり屋のパパが残した唯一の日記帳を覗いてみてはいかがだろう。僕らのこの未来はどんな風に映るだろうか。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 漫画
感想投稿日 : 2013年8月14日
読了日 : 1991年月
本棚登録日 : 2013年8月11日

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