かずの「読まずに死ねるか(パクリ)」»
読まなくても死なないです。だけど、読むと生き生きします。
レビュー by かずさん
これほどに五感の全てに働きかけてくる、"感触"がある小説を初めて読んだよ。
嘘だと思ったら冒頭を立ち読みして欲しい。
夏の海や空のきらめき、朝食の味や食感、海へと続く石畳と家々、砂浜の感触。読んでるだけで気持ちいい。
(余談だが、『魔女の宅急便』でキキが最初の街に行き着くまでの気持ち良さを思い出した)
同時に、こんな吐き気をもよおす、読者に痛みすらも与えるグロテスクな小説も読んだことがない…。
あらすじは仲俣さんの解説を一部引用させてもらいますが…
『南欧の田舎の港町をイメージしてデザインされた、会員制の仮想リゾート空間コスタ・デル・ヌメロ〈数値海岸〉の〈夏の区画〉には、コンピュータ・プログラムを人間の姿かたちに実体化させたAIと呼ばれる住人が暮らしを営んでいる。この〈夏の区画〉はゲストに性的な快感を与えるために設計された空間であり…(後略)』
上のあらすじには書いてないけど、千年前最後のゲストを迎えたのを最後に、ゲストは訪れなくなった。今はこの世界にはAIしか住んでいない。ただ、プログラムである住人たちは決して齢を重ねたりしない。永遠に続く夏休み〈グラン・ヴァカンス〉の中を生きている。
そこに全てを無に帰する存在、蜘蛛たちが侵攻してきて…。
突然だけど、あなた悩みある?
今日もどこか知らない所で戦争や事故で人は死んでる。ただ、あなたはなんの確証もなく、自分自身はおじいちゃんやおばあちゃんになってから死ぬと思ってない? これからもなんとなく人生は続いて、永遠に収束するほどの長い時間を生きれると思ってない?
そんな人たちの〈永遠〉をぶち壊してやりたい。
この話に出てくる登場人物、主人公十二歳のジュール。彼はこの仮想空間ができた時から千年前以上ずっと十二歳だが、それ以前の幼い頃の記憶も持っている。思い出したくない苦悩の記憶もプログラムされている。
この物語の人物たちは、僕たちと同じように悩みを持ってる。
こいつらぼくたちと何にも変わらない。
そんな彼らの永遠を(作者は加虐趣味ではないのかと疑うほど)惨たらしくぶっ潰す。
永遠なんてどこにも存在しない、そんな燃えさかる焼印をぼくたちの肌にぐっと押し付ける。
作者の飛浩隆さんがこんなことを思って欲しいと思って書いたわけではないと思うが、僕はこう受け取った。
SFという現実を捻じ曲げ、伝えたいことをデフォルメして投げかける唯一の分野。それを最大限に使い、美しくも凄惨に、ある意味での〈千年以上続く一夏の恋〉を描いた本作。
SFを食わず嫌いしてる人は損してる、本当に。
永遠なんてどこにもない。
やりたいことがあれば時間が残ってるうちにやれば良いし、好きな人がいるならさっさと離ればなれになる前に告白しろ。
とか、偉そう言いつつ…
他人に言ってるようで、一番は自分への叱咤だったり…。
これを読んでる最中にツイッターにちょいと感想を書いた。
すると、あざとく感想を見つけた作者の飛浩隆さんからメッセージが来て浮かれて、この感想にダメな所を一文字も書いてないというのはナイショ(ぼそり)
レビュー登録日 : 2010年10月16日
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