アラブ革命はなぜ起きたか 〔デモグラフィーとデモクラシー〕

  • 藤原書店 (2011年9月16日発売)
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アラブ圏についてのトッドさんの分析を知りたくて読んでみた。インタビューを構成したものなので、ざっとしたことしかわからないが、それでもいくつかの発見があった。

アラブ圏といってもそれぞれなのである。チュニジア、アルジェリア、モロッコ。マグレブとひとまとまりにされている三国でも事情が異なる。
エジプトもまた特異的でイシス信仰があるのだから女性のステイタスが比較的高い。サウジアラビア、バーレーン、リビアもそれぞれ。そして、イランはずっと民主化が進んでいる。チュニジア、エジプトで2010年に始まった革命と同種のものが1979年に起こっていたのだ。

一般的に民主化とは、市民なるもの、自由な個人が、公的空間に出現することなのだということを知った。「民主化」ってよく聞く言葉だったけどその意味をあまり深く考えずに使っていたなぁと…

そうそう、肝心のアラブ圏の家族制度は、父系の内婚制共同体家族である。子供の社会的ステイタスの定義において、両親ではなく、父親だけが重要である場合に、そのシステムは父系と呼ばれ、アラブの父系の平行いとこ同士を優先させる婚姻は、内婚制であり、内側に閉ざされた家族集団を産み出すから、公的空間に市民というものが出現しにくい家族制度である。
そんなこともあって、アラブ圏では民主化が多少進行しにくいのだけれども、識字率の上昇や内婚率、出生率の低下などの人口統計学からみると、確実に民主化してきているというのがトッドさんの結論である。

そして、アラブ圏の家族制度が重要視する価値は、権威と平等。平等を求めるので、ある種の普遍性は追求される。さらに内婚制から生じる穏やかさを含み持つ父親像が投影されるイスラムの神の慈悲深さという分析は驚きだった。
いろいろとまだまだ、未消化で、もうちょっと頭を整理したいが、余裕ができたら今度はもっと詳しい「文明の接近」を読みたい。

それにしても、トッドさんの多様性の尊重と普遍性への志向のバランスの素晴らしさが感じられる。たぶん、それらが存在する次元ってのは異なるのだろうけど、自分も「多様性の尊重と普遍性への志向」を持ち続けたいなと思った。

Mahalo

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 評論
感想投稿日 : 2017年1月12日
読了日 : 2017年1月12日
本棚登録日 : 2017年1月11日

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