階級「断絶」社会アメリカ: 新上流と新下流の出現

  • 草思社 (2013年2月21日発売)
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感想 : 17
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1960年代以降にアメリカで起こった価値観レベルでの階級分断について書かれた極めて刺激的な本です。

1960年頃までは、白人社会においては格差は見られたものの、余暇の種類や質等にも極端な違いはなかったものの、認知能力がパフォーマンスを発揮する仕事の普及と認知能力を効果的に振り分ける大学進学の普及により、認知能力の高い人同士が集まり、コミュニティや地域を形成し、認知能力の高い人同士が結婚し子どもを産み二世三世が出てくるといった過程で、「新上流階級」がその他の人々から分離することとなった。そうして分断された新上流階級と新下流階級においては、アメリカ建国以来の美徳と考えられてきた、結婚・勤勉・正直・信仰に対する態度に乖離が生じている。一般的なイメージと異なり、データが示すのは、これらの美徳を維持しているのは新上流階級の方である。幸福を得られる領域は、家族・仕事・コミュニティ・信仰の4つのみであり、これは先述の美徳によるものであり、結果として新上流階級における幸福は維持されている一方で新下流階級においては減じられている。しかも分析対象をを白人だけでなくアメリカ全国民(の壮年)に拡張しても、その構図は変わらず、すなわちアメリカで起こっているのはもはや人種による分断ではなく階級による分断であるということになる。そして新上流階級の行動規範は「いい人であれ」という漠然とした命令でしかなく(これを著者は「普遍的優しさの掟」と呼ぶ)、新上流階級は自らの価値観を広めることを避けるため、本来支配的少数派として行動規範が社会の基準になるべきであるところ、その役割が果たされない。

以上のことはデータを分析した客観的事実として提示していますが、最終章ではリベラリストとしての主張を展開しています(むしろ前章まではこの主張を展開するためのお膳立てであると言えます)。そもそも幸福を得られる領域が4つしかないという前提は、すなわち、家族に、仕事に、社会に対して責任感を持つことそのものからこそ幸福が得られるという考えに依拠しています。そのため、西欧的な福祉国家政策はこのような責任感を毀損するものであり、アメリカ的な精神にそぐわないばかりか一般的にも国家の崩壊を招くと痛烈に批判しています。これについては読者の政治信条により意見が分かれるところでしょうが、無視できない白熱する議論のテーマとなります。

最終章以外と最終章は違う頭で読むべきでしょう。そして翻って日本についても個人主義と福祉国家志向が入り混じった社会であって、新上流階級社会的な価値観を持つコミュニティも、新下流社会的なそれも、日本なりの変化した形となって存在しているように見受けられます。本書の中にある「一般のアメリカ人が新上流階級を知らないことより、新上流階級が一般のアメリカ人を知らないことの方が危険だからだ」という一節は、正に日本においても存在する危険であると言えます。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 一般書
感想投稿日 : 2017年1月7日
読了日 : 2017年1月7日
本棚登録日 : 2017年1月7日

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