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着物の入門書・実用書から、着物を語ったエッセイ、着物が出てくる小説、染織・技法に関する専門書まで、「きもの」がキーワードのライブラリー
レビュー by きものコンシェルジュさん
<B>■梨園の妻は賢夫人…きものの"醍醐味"教授本<br>■気っ風よく「買う」を主眼に指南の数々</B><br>兎に角、本当にいろいろな意味で面白く、興味深い一冊。著者は中村芝翫の娘であり、中村勘三郎の妻であり、勘太郎・七之助兄弟の母。そんなどっぷり梨園育ちの著者が「初めてのきもの」ではなく「初めて”買う”」つまり「仕立てて買う」に焦点にあて、ためらいもなく第一章で「いくら用意すればよいか」から指南を始めてくれます。そしてその予算は…一式で70万円!フツウ感覚の読者、きもの初心者には、絶対ひいてしまう額と言わざるをえない予算で。<br><br>
発行年の1992年はまだバブルの余韻残る時代(当時は高くても、あるいは高ければ売れる、呉服業界も強気の価格でいられたという時代背景)で、また本書に出てくるお店の立地からしていわゆる「銀座(日本橋)価格」だからか、この予算なのか、と感じさせなくもない。 けれど、その感覚が今の庶民感覚を乖離している、という穿った見方をやめれば、読み進むうちに「なるほど、そういうものか」と納得をさせる粋人の筋が通った見解が、畳み掛けるような口調で展開されて行きます。現在の市場価格、きもの販売の現状、販売方法の業態の変化(リサイクルやネットショップは刊行当時にはなかったが)はさておき、「いいものは”いい”」「いいものは”息が長い”」といった、脈々と続く伝統芸能や職人技への敬意が「当たり前」に身について育った著者の背景も見えてくる。普通に起こりうる買物の失敗例を挙げるなら「安物買いに銭失い」や「割安に買いなし」(これは株売買の格言ですが)。 著者は暗にこういった失敗をさせないように、何度となく、実用性やTPOやライフスタイルを弁えた品物選びの提案で、読者をきものの魅力へ誘って行く。<br><br>読者が驚くことを承知の上で「白生地からの色無地」に、お勧めとして「加賀紋」を入れることを提案。他にも「最近は対丈(ついたけ)が常識になりつつありますが、長襦袢は昔ながらのお端折りのある仕立てを絶対にお勧めします」、と。これらは初心者には、一体何のことすら分からない。この見地でみれば、本書はある程度、リサイクルきものでも、家族のお下がりでも、着付け教室ででもきものを着たことがあり、きもの全体の知識もある程度はある中級者以上でないと、読みこなせない、実現できない「きものの(仕立てでの)買い方」とはいえる。<br><br>知識や情報の観点でみれば、梨園の妻として、高いきもの経験値があるからこそ、凛とした美学、哲学でこれだけの内容を展開できるのだと思う。若い人の所作で「裾を不必要に右手でつまんで歩く」のはおかしい、とキチンと諭せるだけの自信。こいったマナーの助言は、知識がなく、自分が着ない店員や、お客の顔色を伺って「買ってもらう」ことしか出来ない店員には出来ないこと、してくれないこと、ではないだろうか。黒紋付の羽織りが廃れた理由を事実と歴史を理論をもっての説明もしかり。きものの知識本や解説本では、さらっと「昔は(この時点で、どの年代をさしているかも定かではない)小学校の入学式には母親は黒紋付の羽織り…最近は見かけません」と理由や原因や背景を語らずして「きものの昔話」で終わってしまう。実際の定員に訊いても「昔懐かしのきものが身近にあった時代」の思い出一辺倒。それを著者は時代背景や、きものの社会的な立場の変遷でズバリ答える。まるで頼もしい姐さんのような、気風のよさで。本書全体を通して、「いい、買い物」をするには「信頼できる店を見つけ、きものを見る目を養うことが大切」から「きものの醍醐味を知り」「きものを愛し、大切にする日本女性を目指してみては」というメッセージを感じられる。<br><br>「梨園の妻であること」それそのものが一つ仕事。 その役割で求められるのは、万事上手くいくための総合的なコミュニケーション力。 本書はこれがあるからこそ、長い目でみた賢い買物の方法、メッセージ力のあるファッションとしてのキモノでの自己表現方法、呉服屋と上手く付き合う方法など、あまたのきもの入門書と違った面白さと趣きで書かれた一冊なのかもしれません。求められた「役割」を果たしているなら、梨園の妻も、役者の一人。 そしてかなりの賢夫人と感じさせる一冊です。
【着物中級者向け・きちんとした着物が好きな方向け】(と)
登録日 : 2007年02月05日 12:19:03


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