アナイス・ニンの日記: 1931~34 ヘンリー・ミラーとパリで (ちくま文庫 に 2-1)

  • 筑摩書房 (1991年4月1日発売)
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日記は自分と対等に話せる友達。寝そべっていろんなことを書く。はじめは自分を捨てた父に見せるために書いたけど、今では親しい友達にも見せてる。みんな自分のことが書かれると喜ぶのに日記を書くことをやめさせようとする。日記は阿片のようなもので取りあげられるとイライラしてしまう。ヘンリー・ミラーとの出会いはアナイスを芸術家にした。成熟した女として最愛の父と再会するが、精神分析医ランク博士によって近親相姦的愛を乗り越えていく。美貌と知性を兼ね備え、コケットリーな彼女は男たちを虜にする。男にも女にも理想の女なのだ。

ヘンリー・ミラーとの出会い、ヘンリーの妻ジェーン、芸術家仲間たち、精神分析医アランディ博士、ランク博士(ユングかと思ったが別人だった)、最愛の父…。パリで生まれ、アメリカで育ったアナイスがヘンリーと知り合ってからパリで暮らした3年間の記録は波乱に富んだ時代だったようだ。この時期に『近親相姦の家』、『たくらみの冬』を書いている。ヘンリー・ミラーもまたアナイスの助けによって『北回帰線』を書き上げる。これがアナイスの日記の第1巻で少女時代から晩年に至るまでの日記を出版したようだ。だれか訳してくれないかな。

〈日常生活にはわたしは興味を感じない。強烈な瞬間だけを求めている。わたしは驚異的なものを追求するシュルレアリストに共鳴する。わたしはこんな瞬間が実在することを他の人びとに想起させるような作家になりたい。無限の時間、無限の意味、無窮の次元があることを証したいのだ。〉
〈ジェーンは妖艶な肉体、色っぽい顔、セクシーな声によって悪と官能を呼びさます。彼女には破壊する力がある。わたしには創造する力がある。わたしたちは二つの対照的な力なのだ。お互いに対してはどんな影響をおよぼすのだろう?わたしはジェーンがわたしを破滅させてしまうと思った。〉
〈わたしは詩人だ、だから感じたり見たりしなければならない。麻酔をかけられたくない。わたしはジェーンの美しさに酔っている、だが同時にそれを意識してもいるのだ。〉
〈女同士の愛というのは、葛藤にかわる調和とナルシズムへの避難や逃避なのよ。男女の間の愛には抵抗と葛藤があるでしょう。ところが女同士だとお互いを裁かないの。同盟を結ぶのよ。それはある意味では自己愛ね。〉
〈ジェーンのようにわたしも、炎と燃え、あらゆる体験に、退廃に、道徳の彼岸に、死に恐れずとびこむ力をもっている。白痴とナターシャのほうが、アベラールとエロイーズの自己否定よりも、わたしには重要なのだ。ただ一人の男あるいは女をあいすることは人生を制約する。十全に生きることとは、ヘンリーやジェーンのようにあらゆる方面に無意識的、本能的に生きることなのだ。理想主義は肉体と想像力の死だ。自由、まったき自由のほかはすべて死だ。〉
〈彼女の話は、アルベルチーヌがプルーストにした話のように、一つ一つがジェーンの人生で起こった、明白にすることの不可能な出来事を解く秘密の鍵を含んでいるのだろうか?〉
〈わたしと一緒に彼はプルーストの交響曲、ジイドの聡明さ、コクトーの幻想、ヴァレリーの沈黙、ランボーの啓示(イルミナシオン)を探求する。〉
〈父はわたしが入浴している写真を撮るのが好きだった。いつも裸のわたしを撮りたがった。父の賞賛はすべてカメラを通して届くのだった。〉
〈ヘンリーとわたしにはこの二重の自覚があって、完全に羽目をはずせるのはほんのときまだけだ。それだからこそわたしたちはランボーやトリスタン・ツァラ、ダダイズム、ブルトンといった詩人の狂気に惹かれるのかもしれない。
シュルレアリストの自由な即興は意識の作りだす人工的な秩序や均整を打破する。混沌(カオス)には豊穣さがあるのだ。〉
〈アランディはタローや錬金術や占星術を信じている。〉
〈女性のマゾヒズムは男性のマゾヒズムとはちがう、とわたしは感じている。〉
〈コクトーの『おそるべき子供たち』のように結婚したのだ。〉
〈絵に描いたドリアン・グレイではなく、〉
479
ミルボー『拷問の庭』を読んだとき、その肉体的な残酷さと苦痛の極限に感銘を受けたのを覚えている。
515
日記の役割
〈孝行娘、献身的な姉、愛人、庇護者、父が新しく見出した幻想、ヘンリーが必要とする万能の友、とわたしはあまりにも多くの役割を演じていたので〉

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2014年5月29日
読了日 : 2014年5月29日
本棚登録日 : 2014年5月29日

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