黒い看護婦

著者 :
  • 新潮社 (2004年11月25日発売)
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本棚登録 : 89
感想 : 14
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「現実は小説よりも奇なり」
まさにこの言葉が当てはまる一連の事件。
相手に近づき、親しさを染み込ませてそこから一気に心へ容赦なく入る。
なぜこんな簡単な嘘(それも後半から更に単純かつ強引な嘘)を、たとえ渋々であれ信じ、受け入れるのか?
もし同じ様な状況であれば、知られたくない弱みを握られ、
それを防げるのなら、、の一心が強ければ確かに言い包められ易いのかもしれない、というのが正直な感想だった。

この一連から少なくとも学んだ事は、
どんな時でも自己を冷静且つ客観的な立場で一度見る事が重要だという事。
ありふれたとは言えないが、弱みを握られた3人の"弱点"は決して稀なものでもない。
離婚が怖い、異性問題、夫の浮気疑惑、、、
一般の女性であれば誰しも一度は経験する可能性が少なくない心配事である。
しかし、それを一度主観から外し、客観的に、冷静に見る事で今回の様な残酷な結果にならずに冷静に対処出来たのかもしれない。


逮捕されるまでの"召使い"の3人の中では、吉田純子の作り上げた数名の架空の人物はずっと心を持った人間として生きていた。
その、騙す側と騙される側の間だけで生きている人間が確実に存在していたという感触が何とも言えず、摩訶不思議で、薄気味悪い。

犯罪の境界線に沿って人を疑うという機会がほぼ無いからこそ、
そして「私は大丈夫」という、ある意味皆持っているこの意識が常に根付いていたからこそ、現代の誰でも陥り易い、身近にあってもおかしくない洗脳の一連なのかもしれない。

今回は吉田純子のしたたかさと3人の洗脳具合というよりも、
吉田純子と彼女達、騙す側と騙される側の間にしか存在し得なかった異質な世界が、逮捕直前まで意識と規則を持って生きていたという事実に注目しつつ読了した。


しかし最後まで分からなかった事がある。
なぜ吉田純子は死刑の処分が下った後、著者の居る距離でもわかるくらい、はっきりと笑ったのだろうか?

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 事件関連
感想投稿日 : 2012年8月2日
読了日 : 2012年8月2日
本棚登録日 : 2012年8月1日

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