お友達に勧められた本です。1999年発表の、京極夏彦さんの時代小説。
勧めてくれた言葉通り、割と理屈抜きで愉しめる、勧善懲悪の江戸時代モノ。
味わいとしては、鬼平犯科帳が横溝正史さんになったような感じ、という印象。
お勧めの言葉通り、肩の凝らない、胃にもたれない、大人の娯楽小説、愉しめました。
江戸時代を舞台に、レギュラーの「必殺仕事人」的な、善玉小悪党たち?とでも言うべき、個性的な面々が、法を逃れた非道な殺人者を、懲罰していきます。
あるいは自殺に追い込み、あるいは、直接描写されないまでも殺します。
(中には、悪党というよりも、「可哀そうな殺人愛好者的な変態さん」というのも含まれますが)
で、この小説の仕掛けは、全てが「魑魅魍魎、妖怪、怪談」と言った類の仕業に見せかけて終える、というところです。例外はありますが。
読み始めて判ったのは、前に読んだ「姑獲鳥の夏」もそうだったんですが。
まあ、強引と言えば強引なんです。
「それってものすごい偶然というか…あり得なくない?」
という部分も、たいていあります。
だけど、そこは小説としての面白さとは別次元なんですね。
横溝正史さんの金田一耕助だって、ホームズだって、そういうところはありますから。
謎があって、それが解けて、勧善懲悪になる。そこに、ヒトの業とでも言うべきやるせなさとか、無常観みたいなものが残る。人間ドラマになっている。
そういうことですね。
言ってみれば、ホームズから始まって、殺人と解決のミステリー物語の王道、と言えます。
それが、舞台が江戸時代で、仕掛けが怪談妖怪話。
そこのところで、嘘が跳ねて、小説が粗筋から飛翔する娯楽があるなあ、と思いました。
「気味が悪い」を「鬼魅が悪い」と書くような、歴史的な整合性は知りませんが、京極さん独特の(かどうかも判りませんが)、深い(狭いのかもですが)博識を基にした、確信犯な演出が冴えていると思いました。
連作短編な訳ですが、俯瞰的に説明するところから、証人の一人称をぶん回す下りまで、実に読み易く自在な筆運び。パチパチ。
「姑獲鳥の夏」「巷説百物語」と読んでみて、成程、京極さんの持ち味と旨さ、なんとなく分かった気になりました。
この人の本は、なんていうか…「所詮、そういうことでしかない」という限定を自覚した上で、小説、コトバ、日本語、という武器をしたたかに使って、独自の水木しげる/横溝正史的世界観に、ぐいっと連れて行ってくれる強力さがありますね。
今後も、慌てず愉しみたいと思いました。
連作短編、ヒトによって好みがあると思います。
僕は、「殺人愛好者の変態さん」の巻よりは、「頭が下がるほどの悪党」が出てくる回の方が面白かったです。
「塩の長司」「白蔵主」あたり、好きでした。
####以下、思いっきりネタバレの個人的な備忘録です####
●小豆洗い
無念を持ち死んだ小僧がいた家で、小豆を数える?音が聞こえる、という怪談?をもとにして。
かつて殺人を犯した男を、百物語で脅して自殺させる。
●白蔵主
悪党の一味がいて、その手下の男がいる。
手下はかつて、キツネ狩りの猟師だった。
殺生を止めるように説いた僧を殺したのを、悪党の親玉に見られて、手下に。
狐の怨霊、みたいな怪談で騙して、親玉と手下を会わせ、親玉を殺させる。
親玉は長年、寺の僧に化けていた。
●舞首
女を誘拐してレイプして、というホントに悪い男がいる。
それに妹を浚われて、言いなりになっている巨漢がいる。
その街を仕切っている悪党のやくざがいる。
この三人をそれぞれに騙しておびき寄せ、殺し合いをさせる。
最後に、三人の首のない死体を遺棄。
クビが殺しあった、という怪談にのっとって。
●芝右衛門狸
徳川の御落胤という若者がいる。
表に出れずに失意の日々を送り、殺人愛好者になる。
この人を葬るために、淡路の国の狸の怪談というか言い伝えを利用。
狸が化けたもの、として、葬る。
淡路の国の人形浄瑠璃の話が印象的。
●塩の長司
加賀の国。
馬を売買する金持ちの商人がいる。
そこに、兄弟の悪党が、狙いを定める。
知能犯で馬に詳しい弟が入り込み、気に入られ、婿になる。子も出来る。もう、悪党であることを止める。
収まらない兄が、手下と、その商人の道中を襲う。
そして、ほぼみな殺し。弟と顔が似ているので、入れ替わる。
そのからくりを見破って、もともと兄がもう病身であったので、狂わせ自害させる。
馬の霊みたいなものが取りつく、という怪談を利用。
●柳女
品川宿。
大きな宿屋があり、中庭に大きな柳がある。
色々言い伝えがある。
そこの当代の主人が、良い人なんだけど、「赤ちゃんを殺す」という癖がある。
その人が、妻も含めて殺してはのち添えを貰っている。
そのからくりを暴いて、殺す?。
柳の仕業、みたいなことにする。
●帷子辻
京都、広隆寺近く、帷子ノ辻(今は撮影所がある)。
かつて皇族の誰かが、無常を知らせるため、自分の死骸を放置させた、という言い伝え。
京都の役人が妻を病気で失う。
この人が、死体愛好者?という癖がある。
妻も含めて連続して、殺しては死体を保持し、腐っては帷子の辻に捨てる。
狂ってくる。
このからくりを暴いて、自死させる。
全体を、無関係なヒトの犯行に見せて、役人の名誉を守る。
- 感想投稿日 : 2014年9月11日
- 読了日 : 2014年9月11日
- 本棚登録日 : 2014年9月11日
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