「プールサイド小景・静物」庄野潤三さん。1954年前後くらいに発表された短編を集めた本。新潮文庫。
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読書会の課題図書です。
庄野潤三さんという作家さんは、一度は読んでみようと思いながら何十年も二の足を踏んでいたので、ありがたい機会でした。
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表題作の「プールサイド小景」。プールサイドで子供と泳いでいるサラリーマンのお父さんがいて、傍目には幸せそうに見える。
なんだけど、実は会社のお金を使いこんでしまって解雇されたばかり。これからどうなる。専業主婦の奥さんにも不安が広がる... で、おしまい。
「静物」は、静物画のように、そんなに豊かではないサラリーマンの家庭の日常的なあれこれ、きまずさとか、心理とかが、描かれる。で、おしまい。
他の短編もそうなんですが、O・ヘンリー的な"物語"を期待すると、肩すかしを食らいます。
感動の涙、とかは無いです。絶対にテレビドラマ化されません。
でもなんだか、読んでみて、「ああ、こういうのも分かるなあ」と感じました。恐らくこの人は、こういうものしか書けない。だからこういうものしか書かない。
つげ義春さんの、「私小説的な短編漫画たち」と、やや似ています。ままならない経済生活。「貧しいけれど明るく」なんかぢゃない、生活のストレス。救いの無さとユーモア。一瞬の鮮やかな詩情。「海辺の叙景」「無能の人」「池袋百点会」「隣の女」「散歩の日々」…。大好きでした(でもその後再読する情熱が出ていないのは、幸せなことなのかしらん)。
(そしてふと思ったけれど、若干成瀬巳喜男映画の息遣いと似ていますね。庄野潤三、つげ義春、成瀬巳喜男。うーん。違う気もしますけれど、興味深い)
閑話休題それはさておき。
そういうことの、スケッチみたいなこと。
そうぢゃないと、きっと物凄く"欺瞞"を感じてしまうんだろうなあ...と思いました。
「救いが無いやんか。おもろないわ」と突っ込まれたら、その通りなんです。でもそこはそれ、「いや、嘘偽りの、フィクション特製の、かりそめの救いが欲しいのなら、別のものを読んでください」ということなんだと思います(基本的に僕は欲しいです。ある程度は)。
ぢゃあ、絶望に落とすために書いているのかというとそうではなくて。そういうスケッチの中でしか描けないヒトの生態というか。コトバがずれている気はしますが、そんな中しか味わえない「もののあはれ」というか。ユーモアも。
そういうスルメ昆布みたいな美味しさ。
意外とこういうの、刺さるところにはギュッと刺さる。ツボを押されるみたいな、痛い気持ちよさがあると思います。
そしてそれは、かなり理屈でもなく繊細な細部の積み重ねで出来ていると思います。だから不思議な芸術性?かと思いきや、実は頑固一徹職人仕事、みたいな感じも受ける作風でした。
- 感想投稿日 : 2017年8月10日
- 読了日 : 2017年7月30日
- 本棚登録日 : 2017年7月30日
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