サザエさんの東京物語

著者 :
  • 朝日出版社 (2008年3月22日発売)
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本棚登録 : 130
感想 : 26
4

表紙がカワイイ。タイトルが素直で魅力的。
そんな、担当編集者さんが聞いたら大喜びしそうなコトが衝動買いの大きな理由でした。
あとは、長谷川町子さんの名著「サザエさんうちあけ話」が大好きなこともあって。
とーっても薄い本で読み易く、イッキに読んじゃいました。
軽いけどちょっとしみじみ。良い本でした。

平成の俗世の汗臭さをシュッっと忘れさせてくれる。
歳月と家族、そして昭和の東京という風景を気負いなく、美化もせず、ぽんっとささやかに置いてくれたような一冊。
長谷川町子さんのマンガエッセイ「サザエさんうちあけ話」とご一緒に、おすすめです。
(「サザエさん」よりも100%おすすめです!)

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漫画「サザエさん」「いじわるばあさん」で有名な長谷川町子さんの妹さんが書いた、自伝的エッセイ、ということになります。
長谷川洋子さんは大正生まれなので、今もご存命なら(失礼、知りません)90代のはずです。
この本は2008年の本だそう。

長谷川家とマンガ「サザエさん」の一代記、という意味では、内容的にはほぼ「サザエさんうちあけ話」と、多分7割方一緒です。

長谷川家は、まりこ・まちこ・ようこの三姉妹。
父が早世して、経験なクリスチャンでありかつパワフルな母君が君臨して女手ひとつで三姉妹を育てます。
長姉まりこさんの夫君は結婚後出征、戦死。
まちこさんはまんが道で独身を貫いて、末妹のようこさんが戦後に新聞記者さんとご結婚。
でもお嬢さんを二人遺してやはり夫君ががんで早世します。

結果、戦後の「サザエさんブーム」の裏で、母、三姉妹、ようこさんのふたりの娘、という。
女ばかりの三世代一家になった訳です。
無論、サザエさんの大ヒット後は、細かいお金の不自由は無く、当然「お金持ち」の部類には入ります。
そうなんですが、この一家の物語はやはり面白い。

極端に人見知りで社交嫌いでシャイで内弁慶な、漫画家・まちこさん。
三姉妹で結成した出版社「姉妹社」。
品があるけど行動力抜群で、当たって砕けまくるゴッドマザー。
個性豊かな三姉妹。
抱腹絶倒な上に、時代を感じる数々のエピソード。

そしてこの本は後半、末妹・洋子さんの「60近くまで、強烈な母や姉たちの支配下に居過ぎた」という勇気ある反省と独立の回顧録になります。
家族内の批判めいたことはありませんが、そうとうな「女系家族」の確執があったんだろうなあ、という。
そして、それでも家族は家族、という素直な感情。
子育て、そして病気、そして親の最期という、地味ながら万人に共通な事柄への体験談と思い。

ご一家は皆さん、どうやらプロテスタントのクリスチャンなんですね。
そして、育ちが良い(といっても中流勤め人家庭だったはずですが)家庭出身のせいなのか、
いろいろあっても権力や名声という欲望の罠にかすりもせずに過ごした、
あるおんなばかりの一族の昭和時代の長い長い物語。
それを、力まず謙虚に、そして素直に綴る文章がとってもさわやかな。

このご一家、ぜんぜん、「普通の一家」じゃないんですね。
ここから、ある種のぶっとびSFユートピアのような「サザエさん一家」が生まれたのが単純にオモシロイところ。
そして、実は作者の家族の方が、ドラマチックと言えばドラマチック。

35年くらい前に、NHKの朝ドラ「マー姉ちゃん」が作られるのもむべなるかな。
(アレは原作が「サザエさんうちあけ話」。田中裕子さんのデビュー作)

しかし、長谷川洋子さんが、ウン十億という母と姉の遺産を完全相続放棄している、というのもびっくりでした。
逆に国税局に疑われたエピソードが、笑えて、そしてちょっぴり泣ける感じでした。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 電子書籍
感想投稿日 : 2015年4月22日
読了日 : 2015年4月22日
本棚登録日 : 2015年4月22日

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