水木しげるさんのマンガ本です。1971年に「週刊漫画サンデー」(実業之日本社)という雑誌に連載したものだそうです。
ヒットラーの伝記ですね。水木しげるさんらしい、不思議な魅力ある本でした。
今、ナチスドイツ絡みの翻訳小説を読んでいます。
それを読むうちに、「ナチス/ヒットラーについての基本的なモノゴトをちょっと改めて知りたいなあ」と思いました。
第二次世界大戦史、みたいなことで言うと、ガッツリ記憶に残るような本を読んだことって、あんまりなかったんです。
と、いう訳で一時その小説を中断して、コレを読みました。
「劇画ヒットラー」、ちくま文庫の薄い一冊です。あっという間に読めます。
だから、網羅している訳じゃないんですね。むしろ、ポンポン飛んでいきます。お話は。気持ちいいくらいに。
ヒットラーが子供の時代は無いし、ユダヤ人大量虐殺についても細部はありません。
でも、不遇時代の性格みたいなものは良く見えます。無名の存在から、有能な兵士、そしてある種の社会運動家になっていくあたりも良く判る。
その頃のドイツの世の中の感じも、そこはやっぱりビジュアルで見えるし、感じます。
そして、いくつか、なるほどなあ、と思ったのは、
「ヒットラーとナチスのドイツ内の政権基盤が、盤石だった訳ではない。むしろ、盤石にするために戦争を続けていったんだなあ」
ということとか。
「潜在的なことはともかく、イギリス侵攻作戦の挫折、そしてレニングラードの攻防戦で負けたあたりから、もう滅亡は匂っていたんだなあ」
ということとか。
水木しげるさんの描く、どこか不安なヒットラーの表情が、印象に残りました。
不遇ゆえの餓えと怒り、不幸ゆえの強烈な自己正当化、担ぎ上げられ駆け上っていく中での恍惚と不安。
男女関係のいびつさと歪み、それゆえのストイックさと純粋さ。
急成長組織の内側のもろさ、めちゃくちゃさ。そこにのっかるしかない、ヒットラーさん。
ヒットラーのカリスマに乗っかって成り上がったナチスは、ヒットラーさんが裸の王様になってブレーキが効かなくなったときに、ブレーキを踏むことができない。
ものすごい割り切った省略の中で、そんなことが手触りとして残ります。
恐らく資料写真などを駆使して描かれるビジュアルの中に、水木しげるさんの作家性が気負わず乗せられています。
意外に名著。僕は面白かったです。
- 感想投稿日 : 2014年5月14日
- 読了日 : 2014年5月14日
- 本棚登録日 : 2014年5月14日
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