迷宮入りのまま時効を迎えたグリコ森永事件をモデルに、実際の出来事をなぞりながら犯人を暴いていくフィクション。
誘拐、脅迫に加え、毒入り菓子をばらまきマスコミに挑戦状を送りつけるなど、昭和の劇場型犯罪の代表格とされるこの事件は、手がかりが多数ありながらも未解決に終わっている。キツネ目の男の似顔絵は当時繰り返し報道され、今でも記憶に残っているほどだ。
読後、実際の事件が気になって調べたところ、犯人については諸説あり、本作にも出てきた仕手筋や暴力団、警察関係者、元左翼、同和関係など様々。また、警察の失態が取りざたされ、責任を問われた警察官の自殺も起きていた。
そんな中、作者は子どもの声の録音が脅迫に使われたことに着目し、その子が大人になった今どうしているかをメインに据えている。
事件に関する部分は極力史実どおりに再現したというだけあって、綿密な取材に裏打ちされた丁寧な描きかただ。そのため前半は説明的で、少し退屈。真相が解明されていく終盤は、人間味を帯びたドラマが一気に盛り上がり、引き込まれる。
横山秀夫を思わせる落ち着いた文章だと思っていたら、彼同様に新聞社に勤務していたと知り、納得した。
同じテーマを扱った高村薫の『レディ・ジョーカー』、以前読んだけれど覚えていないので、これを機会に再読したい。
読書状況:読み終わった
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さ行
- 感想投稿日 : 2017年8月30日
- 読了日 : 2017年8月27日
- 本棚登録日 : 2017年8月23日
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