テロリストに拘束された8人の人質が、1人ずつ自分の話を朗読する、という形式で語られる連作短編集。
何とも特殊でうまい設定だ。
人質は、今すぐにでも殺されることを覚悟した上で、自分の人生の中のひとコマを選ぶ。しかも、いったん文章として書いたものを朗読して聞かせるため、過剰な感情の高ぶりは排除され、客観的で静かな語り口調となる。
さらに、冒頭で人質は全員命を落としたことが明かされている。そのため、どの話もひっそりと死に近づいていることを前提に、遺言として厳かな気持ちで読み進めることになるのだ。
つまり、読み手は8人の話を読む以前に、すでに気持ちを一定の方向へと導かれているというわけ。だからこの設定は、作品になくてはならない、作者の巧みな仕掛けと言えるのでは。
もちろん、それぞれの話もどれも印象深く、作者の魅力がふんだんに盛り込まれている。個人的には、ビスケットとヤマネが好き。
表紙も、これしかないでしょうと言うくらいマッチしている。無垢とはかなさ、さらには思慮深さまで感じられる小鹿は、静謐をたたえ、どこか人質の姿にも重なる。作品の実物も見てみたいな。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
あ行
- 感想投稿日 : 2016年4月3日
- 読了日 : 2016年4月2日
- 本棚登録日 : 2016年3月23日
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