なぜ日本は行き詰ったか

  • 岩波書店 (2004年3月19日発売)
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世界的経済学者であった森嶋通夫先生(故人)による、「日本への提言書」になっています。
もともとは英文で書かれたものを、翻訳とした形で04年に出版されています。
内容は一部、古くなっていますが、8章の「二十一世紀の日本の前途」の章だけでも、
本書を読む価値があります。

この章で森嶋氏は、日本社会の質的分析を行い、2050年の未来を予測しています。
通常ならば、経済学者は量的分析を行うはずですが、
2050年の日本経済を現在の統計手法で予測することは可能としつつも、
変動値が大きくまた、有用性があまりないということで本書では質的分析を試みています。

一見、2050年の日本社会を予測するなんてできるの?と思うのですが、
人口とその構成に着目すれば、可能です。50年の日本の高齢層は、
もうすでに、その萌芽が、現在生まれているからです。
つまり、未来の社会は既に現在の社会にあるということです。

人の質は、教育に依存する。今の教育状況を見れば、未来が見える。
そして、働く人の労働倫理も見える。教育の質を分析する上で、学習時間に焦点を当ててみると、
日本の学生は、先進国の学生で、ぶっちぎりの最下位です。
学生時代に学習時間を持たなかったもの、
その習慣がないものが、高校なり大学を卒業して、
学習時間を確保して学ぶことはありません。

学ぶことは、新しい知識を得ることと考えれば、
未来の日本は学ぶ人が極端に少ない社会になっています。
今でも、この傾向には歯止めがかかっていません。

森嶋氏の日本に未来に対する見方は、辛辣ともいえるものです。抜粋すると、

「この国の将来が明るいものでないだろうと結論しても間違いはない。
日本は工業国上位のグループに留まることはできないであろう。
そして国際的影響力は目立たなくなり、取るにたらないものとなるだろう」

日本は長期的に低迷を続け、没落の一途を辿る、
これが、森嶋氏の質的分析です。もちろん、この分析を批判することは、容易です。
しかし、森嶋氏の分析は一読に値すると思います。
森嶋氏の分析が17年の今の日本を見ても、恐ろしいぐらいに当たっているからです。

日本は現状、人口減少、超高齢化社会、少子化、労働者の減少と、今でもそうですが、
これから、これらの影響が様々な面で社会問題として、噴出します。
人口は社会構成要素として、最も重要な指標です。
これらから考えれば、日本は、経済でこれから大国と競争することは、もはやできません。
また、人材の質的競争でも、優れた人材を多く、長期間にわたって生み出せなくなっています。

日本で今起こっている、社会の経済的心理的な二極化は、
これから没落するであろう日本社会の予兆にすぎません。個人がどうこうしても、日本社会は変わりません。「
自分が変えてやる」という人がいるならば、それは、冷静さを失っているか、
そういうことで、自己利益を得ている人です。
こういう状況ならば、自分自身が、希望を持って、幸せに生きるために、
明確な人生観と目標が、今まで以上に必要になります。
日本社会は、もはや自分達に希望を与えることはないからです。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2017年10月1日
読了日 : 2017年10月1日
本棚登録日 : 2017年10月1日

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