世界史を創ったビジネスモデル (新潮選書)

著者 :
  • 新潮社 (2017年5月26日発売)
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感想 : 22
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第Ⅰ部はローマ史、第Ⅱ部は航海時代と現代史である。
謳う「ビジネスモデル」はこじ付けたようであり、古代史~中世史~現代史の論理的ブリッジもほぼなく、野口氏の書きたいものを書いている雑多感は否めない。映画話の挿話も読者にとってはキョトンだ。

国家繁栄の考察としては内容は面白い。ローマ史においてはカエサルではなくローマ帝国初代皇帝アウグストゥスに焦点を当てたのは興味深い。中国の帝王学『貞観政要』でも創業より守成が難しとされており、アウグストゥスが国礎を作り上げ寛容主義を根付かせた結果、衰退の危機を経て五賢帝時代に栄光のパクス・ロマーナをもたらしたといえよう。また15世紀航海時代のポルトガルのエンリケ王子のフロンティアスピリットと驕りによる衰退は示唆に富む。と、ここまではまだよかったが現代史はMBAケーススタディのようだ。世界史の大局観から学ぶ趣旨が置いてけぼりになる。

野口氏の視野と知見の広さは疑う余地はないところではあるが、何故か日本の国家戦略などへの批判的記述では唐突に断定的で偏向的な内容が散見される。また史実への議題提起をしながら要因推定は「しかしそれはわからない」と放り投げれる。HALの由来など誤情報も多い。学者が書く歴史書と一風異なり有識者が書く歴史書は視点がユニークで面白いものの色々と気になることが多い一冊であった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ビジネス/政治経済
感想投稿日 : 2017年8月18日
読了日 : 2017年8月18日
本棚登録日 : 2017年8月7日

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