すなまわり

著者 :
  • 文藝春秋 (2013年8月23日発売)
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本棚登録 : 54
感想 : 9
4

 第149回芥川賞候補。行司経験者の作家による、行司が主人公の小説と聞き、相撲に多少の興味があるので読んでみることにした。

 出来事を主体に、ほとんど感情について触れられることなく描かれていく。角界という特殊な世界についてのことなので、下手に説明されるよりも、実際にこの目で見たかのような読後感があり面白かったように思う。かかとのヒビとか、流れていく黄痰とか、糖尿とか、土俵に立つ足の裏の感覚とか。自分で体験しているようだった。

 新時代にメモを取ったら怒られたとか、新聞読んだら「辞める気か」と言われるところは、よくある新社会人の心得の真逆を行っているようでビビる。また、理屈を排除し、いかに感情を動かさないかという心得も、理屈っぽく物事を考えてしまう自分には新鮮(奇異)?に映る。ただし、それはただ何も考えずぼーっとしているだけというほど甘いものではなく、そのための努力?は両親とのやりとりの中で垣間見えてニクい。

 それだけに、そうした姿勢を貫く主人公はこの後どうなっていくんだろうと非常に気になる。理屈から離れること、考えないということに、私は不安を覚えてしまうからかも知れない。

(乾燥腕)
 良くも悪くも、表題以上に印象に残った、というか、こべり付いてしまった小説。主人公から関連人物、世界観すべてが小汚い。無職時代に一度経験したことだが、一週間近くトイレと食事以外部屋から出ず風呂にも入らなかったとき、体が臭くて髪はベタベタ、体をぼりぼり掻くという最悪状態になったことがあった。実に汚いが、この小説はずっとそんな感じ。

 たまに視点が主人公以外になるのだが、それが鼠、どじょう、金魚、アパートの下の階に住むジジイなど。彼らが視点という点で主人公と同じ土台に乗ることで、主人公までが取るに足らない存在に感ぜられてしまう(ジジイに失礼ではあるが)。自慰行為のオカズが羽虫など、あんまりではないだろうか。異性との性行為も書かれるが、今まで読んだ小説の中でも最悪。生物誕生以来ここまで性の営みを侮辱する表現が存在したであろうか、と仰々しい表現で言いたくなるほど。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 日本の作家 た行
感想投稿日 : 2016年8月8日
読了日 : 2015年10月24日
本棚登録日 : 2016年8月8日

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