聖書考古学 - 遺跡が語る史実 (中公新書 2205)

著者 :
  • 中央公論新社 (2013年2月22日発売)
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感想 : 58
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帯の宣伝文句のような「本書は現地調査に従事する研究者の、大いなる謎への挑戦である」といった派手さやワクワク感はないが、読んでいて楽しい本だった。
考えてみると、自分も含めて多くの日本人の聖書の知識はお粗末と言わざるをえない。本書にもあるが、高校の教科書にはモーゼは実在の人物として登場し、出エジプト記も史実のように書かれている。史実だと思っていたことについて、フィクションの可能性が高いと指摘されるのは知識の修正という意味で有意義と思う。
「聖書考古学」とは、「聖書の歴史記述の深い理解に達するため、特に聖書の舞台となった古代パレスチナを中心とした考古学」という。そして、本書では、「信仰の対象としての聖書からは距離を置き、聖書を『人間が何らかの意図を持って書き、また編集したもの』として批判的に扱」っている。
例えば、イスラエル人には「大イスラエル主義」という政治的主張がある。これは「カナンの地全体がイスラエル民族に神から与えられたものである」という旧約聖書の信仰につながっている。一方、考古学的発見から、平野部にいたカナン人の一部が山地に住むようになり、彼らが次第に独自のアイデンティティを形成して後にイスラエル人として出現したという有力な説もある。しかし、出エジプト記がまったくのフィクションだと断言できないという聖書考古学の限界も、この本から読み取れる。
歴史本のブームの中で、自分の中にある史実を見直すきっかけとなってくれる本ということで良書と思う。お勧め。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 歴史
感想投稿日 : 2013年8月11日
読了日 : 2013年8月11日
本棚登録日 : 2013年8月11日

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