「いつか」書こうと、ずっと思っていた。
「あすな」ら、書けるのではないかと思った。
この本は───何度読み返しても、幸せな気持ちになれる感動の物語。
ひたすら「素晴らしい青春群像劇」だというしか、他に評価する表現手段を私は持ち得ない。
タイムトラベル、タイムスリップ。
三ヶ月先に起こる同じ高校の生徒の自殺を突然知ってしまった主人公、依田いつか。
彼は多くの友人の助けを借りて、奔走する。
その“誰か”を、絶対に守るために。何とか死なせないために。
いったい誰が自殺するのか。
絶望と暗闇の深淵の中に飛び込んでしまうのは誰なのか。
“いつか”は、自殺する人間を見つけ出すために、放課後に名前探しの旅を始める。
残された期間はわずか三ヶ月。
その間に“誰か”を探し出し、なんとしても自殺を食い止めなければならない。
それが、三ヵ月後の未来を図らずも知ってしまった自らの使命だと頑なに信じて。
その真剣な思いを感じ取ったからこそ、友たちも“いつか”に手を貸し、それぞれの役割を担い、“誰か”を探し、助けようとする。
はたして自殺は食い止められるのか?
高校生たちの絆は未来を変えることができるのか?
友たちのつながりは、ある意味非常にドライのように見える。
固い友情で結ばれたというような、ありきたりの関係ではない。
ギブアンドテイク。
“いつか”を手伝うから、その代わりに何かしろよ、というような代償を求める者もいる。
でも、それは一種の照れ隠し。
本音では彼らも、その”誰か”の自殺を思い止めさせるため、自分だけにできることで、必死に助けようとしているのだ。
甘ったるい友情や言葉の発露がないからこそ、彼らの結び付きに心が打たれる。
彼らの絆は、心の奥底で深く結び付いてるように思えるから、信じることができる。
幾度読み返して、幾度、感動の涙が頬を伝ったことか。
単なるミステリーとして語れない、天才“辻村深月”の世界観がこの作品にあります。
是非みなさん、ご一読願いたい。
『無人島に持っていくならこの本』と自信を持って言えるお薦めの一冊です。
最後の最後で、見事な伏線回収の、素晴らしき『辻村深月ワールド』を体験してください。
註:皆さんが書かれているように「ぼくのメジャースプーン」を先に読んだほうが、エピローグでの秀人の言葉の意味が分かることは確かです。
ただ、私はさほど気にせずに読み流しました。
その言葉の意味が分からなくても感動したので。
- 感想投稿日 : 2012年3月29日
- 読了日 : 2011年11月11日
- 本棚登録日 : 2012年3月29日
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