名前探しの放課後(下) (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社 (2010年9月15日発売)
4.29
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本棚登録 : 9089
感想 : 730
5

「いつか」書こうと、ずっと思っていた。
「あすな」ら、書けるのではないかと思った。

この本は───何度読み返しても、幸せな気持ちになれる感動の物語。
ひたすら「素晴らしい青春群像劇」だというしか、他に評価する表現手段を私は持ち得ない。
タイムトラベル、タイムスリップ。
三ヶ月先に起こる同じ高校の生徒の自殺を突然知ってしまった主人公、依田いつか。
彼は多くの友人の助けを借りて、奔走する。
その“誰か”を、絶対に守るために。何とか死なせないために。
いったい誰が自殺するのか。
絶望と暗闇の深淵の中に飛び込んでしまうのは誰なのか。
“いつか”は、自殺する人間を見つけ出すために、放課後に名前探しの旅を始める。
残された期間はわずか三ヶ月。
その間に“誰か”を探し出し、なんとしても自殺を食い止めなければならない。
それが、三ヵ月後の未来を図らずも知ってしまった自らの使命だと頑なに信じて。
その真剣な思いを感じ取ったからこそ、友たちも“いつか”に手を貸し、それぞれの役割を担い、“誰か”を探し、助けようとする。
はたして自殺は食い止められるのか?
高校生たちの絆は未来を変えることができるのか?

友たちのつながりは、ある意味非常にドライのように見える。
固い友情で結ばれたというような、ありきたりの関係ではない。
ギブアンドテイク。
“いつか”を手伝うから、その代わりに何かしろよ、というような代償を求める者もいる。
でも、それは一種の照れ隠し。
本音では彼らも、その”誰か”の自殺を思い止めさせるため、自分だけにできることで、必死に助けようとしているのだ。
甘ったるい友情や言葉の発露がないからこそ、彼らの結び付きに心が打たれる。
彼らの絆は、心の奥底で深く結び付いてるように思えるから、信じることができる。
幾度読み返して、幾度、感動の涙が頬を伝ったことか。

単なるミステリーとして語れない、天才“辻村深月”の世界観がこの作品にあります。
是非みなさん、ご一読願いたい。
『無人島に持っていくならこの本』と自信を持って言えるお薦めの一冊です。
最後の最後で、見事な伏線回収の、素晴らしき『辻村深月ワールド』を体験してください。

註:皆さんが書かれているように「ぼくのメジャースプーン」を先に読んだほうが、エピローグでの秀人の言葉の意味が分かることは確かです。
ただ、私はさほど気にせずに読み流しました。
その言葉の意味が分からなくても感動したので。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 辻村 深月
感想投稿日 : 2012年3月29日
読了日 : 2011年11月11日
本棚登録日 : 2012年3月29日

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コメント 4件

まろんさんのコメント
2012/08/05

最初の2行にkoshoujiさんらしいセンスが溢れていて素敵ですね♪

高校生の彼らが、頭も身体も懸命に駆使して未来を変えてしまう、
その姿がとても眩しくて、泣きっぱなしでした。
辻村さんの作品は、まだ4作しか読んでいないので
これから読み進めるのが本当に楽しみです(*^_^*)

koshoujiさんのコメント
2012/08/05

辻村深月、最高でしょう?
特に個人的には、最近の作品よりも初期の講談社路線がベストだと思っていますが。
是非是非、読み続けてください。
私個人は、彼女が初期の路線に戻った感動作を発表してくれるのを願うばかりです。

シロツメクサさんのコメント
2012/10/30

コメントありがとうございます

頂いたコメントの所に書いても気付いてもらえないことに
気付いたので、こちらに

そうですね、
初期の辻村さんの作品で、
『言いえて妙』な人物表現といいますと、

「凍りのくじら」で理帆子が使う、
SF(スコシナントカ)が浮かびました

「F」の縛りがあるにもかかわらず、
キャラクターの性格を完璧に表現していると思います

杜のうさこさんのコメント
2015/07/28

こんばんは~♪
泣きました~。koshoujiさんの涙のツボとは少し違っているかもですが。
実は『メジャースプーン』読んでないのです。動物が傷つけられる話はつい避けてしまう性質で…。
でも、椿が正方形みたいな歪み方をしてしまった理由や、秀人の力の謎を知りたいので読んでみます。そしてもう一度読み返したいです。

ブログもさっきお邪魔して、またまた目頭が~。koshoujiさんのおかげで、あの頃にタイムスリップです(笑)
旭小だったんですね。初恋の男子が旭小出身でした(#^.^#)たしか台中のグラウンドから校舎が見えましたよね。

そして肩を組んで歌った紺碧、同じ時の流れの中にいられる幸せ、おもわず「みんな大好き~!」って叫びたくなるような高揚感。
本当に懐かしいです。

小田さんのような歌声!なんて羨ましい!
私は、自他ともに認める音痴です(笑)

では、また遊びに来ま~す♪

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